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『小川のほとりで』お酒と寸劇づくりが織りなす珠玉の会話/群像劇

©2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

『小川のほとりで』お酒と寸劇づくりが織りなす珠玉の会話/群像劇

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いつもと同じ でもいつもと違う



 27歳の頃、ロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』(51)を観たのがきっかけで長編監督を志したホン・サンス。だが、それまでは短編や実験的な映像作品づくりがメインだったらしく、きっとそういった過去があるからこそ、商業映画のノウハウとはかけ離れた独自のスタイルが貫かれ、他の監督には決して真似することのできない空気感、世界観が創出されていくのだろう。


 かくも長編デビュー以来、約30年に及ぶキャリアの中で、30作以上の飄々とした雰囲気をたたえ続けてきた彼。この『小川のほとりで』もいつもと変わらぬタッチで、緩やかな会話の呼吸を丹念に紡ぐ。しかし一方で、ハッとさせられる部分もある。



『小川のほとりで』©2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.


 例えば、”寸劇づくり”という言わば映画づくりのメタ的な部分が一つの要素に据えられている点が面白い。そこにはホン・サンスの芸術(ものづくり)に対する極めてピュアな部分が自ずと凝縮されていると言っていい。


 加えて、今回は学生役の若き俳優陣がフレッシュな空気を注ぎ込んでいることにも注目したい。これによりラスト近くでは思いがけない感動的なシークエンスが爆誕。相変わらずの長回し&延々とつづく会話の中で、各々の口から語られるありったけの胸の内、今この瞬間を生きる輝き、未来へ向けて伸びゆくベクトルに、筆者は思わず感極まった。まさか私がホン・サンス作品に泣かされるとは本当にびっくりだった。


 そうしているうちに映画はいつもの飄々としたタッチへ帰着。お酒がある。川のせせらぎが聞こえる。いろんな思いを抱えつつ、ほんのりと気分がよくなった大人たちの、足もと覚束ない時間が、ただただ流れていく。


 いつもと同じ。しかし唯一無二。その微妙かつ曖昧な言葉の意味を、観賞後のあなたは今誰よりも深く感じ取ってくれているはずーーホン・サンスの世界へようこそ。


参考記事URL:

https://www.festival-cannes.com/en/2025/interview-with-hong-sangsoo-member-of-the-feature-films-jury/

https://mubi.com/en/notebook/posts/there-are-mirarcles-a-conversation-with-hong-sang-soo



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。




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作品情報を見る



『小川のほとりで』

監督デビュー30周年記念「月刊ホン・サンス」第2弾

ユーロスペースほかにて新作を5カ月連続で順次公開中

配給:ミモザフィルムズ

©2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

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