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『恋愛裁判』愛することは、なぜ社会に捕獲されるのか?

©2025「恋愛裁判」製作委員会

『恋愛裁判』愛することは、なぜ社会に捕獲されるのか?

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『恋愛裁判』あらすじ

人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長、チーフマネージャーらによって、法廷で厳しく追及されることとなる。


Index


善意はなぜ牙を剥くのか



 深田晃司という映画作家が貫いてきた主題を一言で言い表すなら、それは「親密性が社会に捕獲される瞬間」ではないだろうか。愛情や、友情や、善意といった感情がある境界線を越えたとき、それは個人の平穏を脅かす災厄へと反転し、自分自身を窮地へと追い詰めていく。その変容のプロセスを、深田は一貫して描いてきた。


 例えば、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した『淵に立つ』(16)。下町で町工場を営む平穏な家族のもとに、夫の旧友だという男が突然現れ、居候を始める。夫の贖罪、妻の信仰、そして家族の善意。一人の男という“異物”の介在によって、積み上げられてきた親密さは、あっという間に互いを破壊し合う凶器へと変貌を遂げる。


 この「親密さが牙を剥く」構造は、その後の作品でより社会的な広がりを見せていく。『本気のしるし 劇場版』(20)では、一人の女性を助けたいという善意が、主人公の平穏な日常を跡形もなく破壊していく。本来なら美徳とされるはずの行為が、ここでは依存と執着を生み、生活を侵食し、本人を追い詰める社会的な毒になり得ることを、この映画は冷徹に突きつける。



『恋愛裁判』©2025「恋愛裁判」製作委員会


 『よこがお』(19)では、その問題はさらに別の位相へと侵入する。献身的な仕事ぶりで周囲から信頼されていた訪問看護師の市子は、訪問先の家族をめぐる少女失踪事件をきっかけに、思いがけない形で関与を疑われ、築いてきた生活が崩壊してしまう。そして市子を慕っていた女性の感情も、この事件を境に、相手の弱みを握り支配しようとする執着へと反転していく。


 『LOVE LIFE』(22)に至ると、愛情をめぐる問題は、もはや「誰を愛するか」というロマンチックな次元を超え、「誰を世話し、誰に責任を持つか」というケアの問題へと変換される。突然現れたろう者の前夫に対し、妻が手話で向き合い始めた瞬間、手話を解さない現在の夫は、家の中にいながら部外者となってしまう。たった一人の存在によって親密さのバランスが崩れ、家族は言葉の通じない冷え切った「箱」へと変質してしまうのだ。


 そして最新作『恋愛裁判』では、アイドルの恋愛禁止条項をめぐる訴訟をモチーフに、「恋愛そのものが裁かれる」という極めて直接的な構図をとる。しかしこの映画は、社会派への突然の転向でも、時事ネタへの迎合でもない。むしろ、深田晃司がこれまで撮り続けてきた、「善意が社会的な毒に変わり、親密な関係が冷ややかな制度へと変質していく」というテーマを振り返れば、『恋愛裁判』は必然的に到達した地点であることが見えてくる。




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