怪作『淵に立つ』(16)や『LOVE LIFE』(19)など、日常から滑り落ちるような感覚を独特の歪みと清廉さで描いてきた深田晃司監督。カンヌ国際映画祭を始め世界的な評価も高い鬼才の最新作は、なんと日本のアイドル業界を舞台にした『恋愛裁判』。かつてアイドルグループ日向坂46のセンターも務めた齊藤京子を主演に迎え、恋愛禁止という業界のタブーを破ってしまったアイドルに降りかかる試練と心の旅を描いてみせた。
構想から10年がかりで実現したという『恋愛裁判』には、どこかクセのある人物たちが蠢くこれまでの深田ワールドとは違って、特段変わった人物は誰ひとり出てこない。新境地や作品に込めた想いについて、監督の口から語っていただいた。
『恋愛裁判』あらすじ
人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
Index
社会運動と作品作りは別
Q:アイドルの恋愛禁止にまつわる現実の裁判が着想になったそうですが、深田監督が世の中に説教するような映画にはしないんじゃないかと思っていました。ただ世間には『恋愛裁判』を芸能界の裏を暴くスキャンダラスな映画ではないかと想像している人もいると思うんです。
深田:そうですよね。取材に来られた記者の方にもアイドルのファンだという人がいて、「アイドル業界を批判されるんじゃないかとすごく怖かった」と仰ってました。「だけどこれだったらファンの人にもすすめられます」みたいに言ってもらって、まあ良かったのかなと思ったりしていました(笑)。

『恋愛裁判』©2025「恋愛裁判」製作委員会
Q:深田監督には映像業界の職場環境など、さまざまな改善や改革に取り組んできましたが、そういう内容の映画を撮ってきたわけではないですよね。
深田:ソレはソレ、コレはコレと言いますか、社会運動と作品作りは別だとは思ってますね。
Q:ただ、プレス向けの資料を読ませてもらったら、企画した当初はわりと人権問題を告発する意図があったと仰ってましたね。
深田:ちょっとそれには補足が必要で、それもある種、結果論だったと言いますか。主人公の真衣を中心に書いていくと、スタンダードな作劇だと「どれだけお客さんを真依に感情移入させるか」みたいなことが重要になってくるんですね。劇中の真衣の行動に対して多くの賛同を得たいと思ったら、真衣に対する負荷がたくさんあった方がいい。そのためには単純に暴力的で反感を持たれやすい芸能事務所を出したほうがその構造が作りやすいっていうところがあって、最初はそこを意識しながら書いていたんです。でもやっぱりそれじゃないよねって思って、変わっていった感じです。