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『恋愛裁判』深田晃司監督 業界の当事者に届けるために考えた【Director’s Interview Vol.535】

『恋愛裁判』深田晃司監督 業界の当事者に届けるために考えた【Director’s Interview Vol.535】

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意図的に減らした、事務所のブラック属性



Q:状況としての不条理感を象徴していたのが唐田えりかさんが演じたマネージャー役だと思うんですが、すごく仕事ができそうな人なのに裁判の証言台だと用意したことしか喋らせてもらえない。あのときの唐田さんの死んだみたいな目がすごく良かったです。


深田:あの目、すごくいいですよね(笑)。もう自動機械のように決められたことを言っているだけで、その感じが伝わっていたなら本当に良かったです。あれって劇中では説明してなくてわかりづらいかも知れませんが、証人尋問って事前に練習できるんですよね。唐田さんに尋問してる弁護士はいわば原告側、事務所側の弁護士だから、こういったことを質問しますからこう回答してくださいって事前に全部決めて、リハーサルとかもやっている。だからもう自動機械のように決められたことを練習通りに話すしかないんですよね。訴えられている側の弁護士に質問されるときは、何を聞かれるか正確にはわからないからさすがにアドリブになってくるんですけど、自分の側の弁護士の証人尋問は本当に演劇みたいなものですね。 


Q:その後、齊藤京子さんが演じる真衣が証言するときに、後ろの傍聴席に唐田さんが座っていて右の方に映り込んでいる。あれもすごく意味深に見えます。


深田:あれは実は現場で決めたんです。証人尋問が終わったら「証人の唐田さんはどうすればいいんだっけ?」って思って考証のために現場に来てもらっていた弁護士の方に聞いてみたら、「普通は帰りますよ」って言うんです。「じゃあ、傍聴席にいても大丈夫ですか」って言ったら「ああ、そういう人もいますね」みたいな返事だったから、唐田さんには微妙に映り込むぐらいの感じで座ってもらいました。


実は唐田さんはすごく芝居に気持ちを乗せてくれていて、最後に証言台の真衣が「自分の気持ちに嘘をつくのが嫌だったからです」っていうときにポロポロと涙を流す演技をしてくれていたんです。ただ、そこで唐田さんにフォーカスしすぎると映画のバランスがおかしくなってしまうから編集で使わなかったんですけど、すごくいろんな想いを込めて後ろに座ってくださっていました。

 


『恋愛裁判』©2025「恋愛裁判」製作委員会


Q:津田健次郎さんが演じた事務所の社長には、ちゃんと酷い業界人な感じが最初から最後までありますが、監督の中ではどういう扱いだったんでしょうか?


深田:ちょっとソフトにしすぎたかなぐらいに思っていたので、厳しく見えたのならよかったです(笑)。でも最初に「物語のためには芸能事務所を悪役にするのが作りやすい」って言った通り、分かりやすく悪役にしてしまってはいけないとは思っていました。


この作品は、観た人それぞれが、例えば真衣の選択に対して賛成してもいいし反対してもいい。「アイドルなんだから、恋愛しちゃ駄目だよ」って感じても全然いいと思っていて。この作品を観ることによって、鏡のようにその人自身のアイドル観とか恋愛観とか、自由に対する考え方みたいなものをあぶり出せればいいなと思っているんです。そ


でも一方で、この映画を一番観てほしいのはやっぱりアイドル業界の人だと思っているんですね。アイドルに関わる事務所の人だったり、あるいはアイドルファンだったり、アイドルを目指してる人だったり。特にアイドル事務所のことを考えたときに、昔ながらの悪徳な芸能事務所、タレントを搾取して自殺者が出るような事務所は現実にもあります。ものすごいパワハラとかセクハラとか性加害もありますが、映画の中の事務所を本当に悪どい存在にしてしまうと、業界の構造の問題ではなくて、この事務所だから悪いっていう話にすり替わってしまう。それってこの映画を観る芸能事務所の人たちに「ウチはこんなに酷くないから大丈夫」って逃げ道を与えてしまう可能性があると思っているんです。


問題の本質は、アイドルであることでそもそも恋愛をするという選択ができないという主体性の問題じゃないかっていうところが肝なのに、パワハラやセクハラ、搾取といったあからさまな暴力の話にしてしまうと、「うちは恋愛はさすがにNGだけど、パワハラしてないからマシだよね」って思ってしまうかも知れない。


Q:つまりある程度意図的に、芸能事務所のブラック属性みたいなものは減らしたということですか?


深田:そうですね。でも事務所側の不条理感というか、例えばあの社長がファンのことを理解しているわけではないとか、最後の裁判では一切喋らずに目も合わせないとか、ちゃんと向き合ってないっていう感じは出すようにはしました。


実際に自分もサポートしている件でハラスメントから派生した民事裁判を傍聴したことがあって、パワハラをしていたある劇団の主宰の人が、裁判には来るんだけど一切目も合わせない、ただ無言で座ってること自体に暴力的な感じがあったので、そこはちょっと意識してやりましたね。津田さんの迫力があってこそのシーンでした。





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