©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
『レンタル・ファミリー』ブレンダン・フレイザーと珠玉のキャスト、そして東京の街が心の隙間を埋めていく
2026.03.05
鏡に映し出される自分
そんなフィリップが担うミッションは主にふたつある。一つはかつて名優として日本映画を牽引した存在、長谷川喜久雄(柄本明)のインタビュアーとなって彼の昔話を聞き出し、自信と活力を取り戻させること。もう一つは11歳の少女ミア(ゴーマン シャノン 眞陽)の父親になりきって、彼女の中学入試の面接を乗り切ることーー。
いずれもキャストの素晴らしい名演が掛け合わさり、見事に紡がれた優しい時間が沁み渡っていく。フレイザーは同役を演じるにあたり、俳優組合や脚本家組合のストライキ中に、オンライン講師に付いて何か月も日本語学習を重ねたらしい。それに日本での撮影前には、独力で電車に乗ったり、人に道を尋ねながら街を彷徨い、役作りのイメージを深めることもあったとか。だからこそ相手のセリフや言葉のニュアンスを表情豊かに受け止めたり、慈しみを持って誰かの心に寄り添おうとする姿が、とりわけ胸を打つのだ。
と同時に、本作が掘り下げるのは、「他人が”大切な誰か”に成り代わることはできるのか?」という命題だ。
ニセモノはどう頑張ってもホンモノにはなれない。これはフィリップが幾度も直面するジレンマであり、俳優を生業にする以上、この宿命と限界は身にしみて理解しているはず。それでもなおフィリップは仕事の枠組みを超えて、その人を支える何者かであろうとする。職業倫理に抵触するのを覚悟の上で、決してブレることなく人との繋がりを最大限に優先しようとするのだ。
それは人助けのためだろうか? 答えはYesでありNoでもあるのだろう。確かにフィリップの真摯な行動によって相手の心は癒されるはず。だがもっと重要なのは、その関係性において、彼自身の心すらも尊い居場所を見つけ、充たされていくことかもしれない。

『レンタル・ファミリー』©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
映画の後半で鏡の中に自分の姿を見出すのはまさに象徴的だ。どう生きるのか。どんな人間になりたいか。そのためにどう決断し行動するのか。遥々日本にやってきたのも自分なら、7年間も住み着いたのも自分。そこでいかなる役を、どう演じるかも己次第。あらゆる可能性と答えは自分自身の中にこそある。
フィリップだけではない。『レンタル・ファミリー』をはじめ、あらゆる映画芸術もまた、リアルとフィクション、ニセモノとホンモノの境界線を超えて、観る人の心の隙間を埋め、何らかの”真実の瞬間”を芽吹かせる使命を持っている。
分断と孤立と憎しみあいが増幅する現代世界。物語の力によって、現状を少しでもより良いものへ変えようとするHIKARIやフレイザーをはじめとする作り手たちの意志と矜恃が尊く伝わってくる。これほど爽やかで、柔らかでおおらかな気持ちにさせてくれる映画は本当に久しぶりだ。
参考記事:
https://scriptmag.com/a-conversation-with-rental-family-filmmaker-hikari
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『レンタル・ファミリー』
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配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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