2026.03.18
「相手を深く知る」というテーマが投げかけるもの
もう一つ、私を惹きつけたエピソードがある。動物たちをモチーフにしたアニメ作品を作ってきたチョン監督が、思いのほか数多くの動物アレルギーの持ち主だというのだ。それゆえ、子供の頃から直接戯れる代わりに愛用していたのは、動物図鑑。これを夢中で読みふけり、そこに登場する動物をかたっぱしからスケッチしていたことが、今の仕事につながる最初の入り口だったとか(*1)。
もしかすると、この「好きなのに、触れられない」といういじらしいほどのジレンマは、『私がビーバーになった時』で主人公が越えようとする「境界」を描く上での大きな原動力となっているのかもしれない。
そこには野生動物と人間を分かつ境界が存在する。しかしそれだけではない。同じ人間の中にも立場の隔たりはあるのだ。私たちは相手について100パーセント理解することはできない。相手の主張が到底受け入れられないこともあれば、自分の信念がうまく伝わらないことだってある。人生は試行錯誤や葛藤の連続だ。

『私がビーバーになる時』(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
とりわけ本作で重要なのは、メイベルが己の信じる正しさを動物世界に持ち込んだ結果、正しかったはずのことがどんどんズレや摩擦を引き起こしていく点だ。しかし彼女はそこから学び、常に修正していく。
私たちにできることは、相手が絶対ではないのと同時に、自分も絶対ではないと自覚すること。そして言葉は通じなくとも、相手を見下したりステレオタイプに押し込めることなく、互いに関心を持ち合って、じっくり相手のことを知ろうとする。そうやって共に歩んでこそ、初めて世界は回りだすのかもしれない。
一見、「自然や動物を守ろう」という環境問題を訴えた映画のように見えて、そこから急激にエネルギーを燃焼させ、奇妙奇天烈で突拍子のない、しかし芯のあるヴィジョンに突っ込んでいく本作。6年にわたる旅の果て、「相互理解」といった概念そのものが危機に瀕する現代に最もふさわしい一作に仕上がったのではないだろうか。
参考・引用記事URL
*1)https://d23.com/exclusive-qa-with-hoppers-director-daniel-chong/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『私がビーバーになる時』
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配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.