2026.03.18
インスピレーションはいかに変容を遂げたか?
監督に抜擢されたのは、ダニエル・チョン。かつて『カーズ2』(11)や『インサイド・ヘッド』(15)のスタッフとして携わり、その後、ピクサーを離れ、大人気となったTVアニメシリーズ『ぼくらベアベアーズ』(15~20)を生み出した経歴の持ち主だ。
今回、ピクサーCCOのピート・ドクター(『モンスターズ・インク』『インサイド・ヘッド』)の熱烈な要望に応えて帰還を果たしたわけだが、そこからおよそ6年がかりで完成させた本作のインスピレーションとなったのは、動物の形をしたハイテクメカが群れの中に投入されるネイチャー・ドキュメンタリーだったとか。
はたして動物たちはいつ異変に気づくのだろう。気づいた瞬間、メカは攻撃されたり、部品をもぎ取られたりするのだろうか…。そんなことを考えているうちに、これがもっと精度の高い、動物と見分けのつかないほどのメカだったらどうなるのだろうと想像し、「あ、これってまさに『アバター』みたいだ」と感じたという。
興味深いことに、当初は『ミッション:インポッシブル』的な要素を持った、世界中を飛び回る構想だったらしい。でもそれだと壮大すぎるのでグッと焦点を絞り、さらにはアメリカのイエローストーン国立公園における「一度崩れた生態系をビーバーたちが回復させた」という逸話を知り、もともとペンギンだった主軸をビーバーに置き換えたのだとか。つまり、けっこう試行錯誤しながら変容を遂げていった物語なのだ。

『私がビーバーになる時』(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
監督が外部で鍛えた、ピクサーで不可欠な素養
ダニエル・チョン監督が、ピクサーの特徴について語っているインタビューがある。それによると、このスタジオの映画製作では、とにかく脚本を何度も何度も修正して改稿を重ねるのだそう。常にたくさんの指示を出し、修正や変更を加えていく。この絶え間のないブラッシュアップに応え続けることは重要な資質であり、チョン監督曰く「ここで働くには、慣れるしかない」とのこと(*1)。
こういった資質を得る上で、チョン監督にとってはピクサーの外に出たことがやはり大きな飛躍に繋がったようだ。猛烈なサイクルで『ぼくらベアベアーズ』の140話を作り続ける中、チームをまとめ、素早く脚本を書き、アイディアを捻出し、脚本を修正する力が鍛えられたのだ。さらにこの過程で「自分がどんなものを好むのか」を明確化できたことも大きかった(*2)。
監督として重要な方向性を決定する上では、自分の好みが極めて重要となる。どんなユーモアやセンスに惹かれるのか。どんな絵柄やスタイル、会話の展開がベターなのか。それらの内なる基準を明確に把握できていないと、具体的に指示を出したり、スピーディーに決断するのが難しくなる。普段わかっているつもりでも、突き詰めて考えると意外と曖昧だったりするのが、この好みの部分なのだとか。