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『リメンバー・ミー』壁などない!ディズニー/ピクサーだからこそ成し得た「越境」とは

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『リメンバー・ミー』壁などない!ディズニー/ピクサーだからこそ成し得た「越境」とは

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※2018年3月記事掲載時の情報です。


『リメンバー・ミー』あらすじ

主人公は、ミュージシャンを夢見る、ギターの天才少年ミゲル。しかし、厳格な《家族の掟》によって、ギターを弾くどころか音楽を聴くことすら禁じられていた…。ある日、ミゲルは古い家族写真をきっかけに、自分のひいひいおじいちゃんが伝説のミュージシャン、デラクルスではないかと推測。彼のお墓に忍び込み美しいギターを手にした、その瞬間──先祖たちが暮らす“死者の国”に迷い込んでしまった!


そこは、夢のように美しく、ガイコツたちが楽しく暮らすテーマパークのような世界。しかし、日の出までに元の世界に帰らないと、ミゲルの体は消え、永遠に家族と会えなくなってしまう…。唯一の頼りは、家族に会いたいと願う、陽気だけど孤独なガイコツのヘクター。だが、彼にも「生きている家族に忘れられると、死者の国からも存在が消える」という運命が待ち受けていた…。絶体絶命のふたりと家族をつなぐ唯一の鍵は、ミゲルが大好きな曲、“リメンバー・ミー”。不思議な力を秘めたこの曲が、時を超えていま奇跡を巻き起こす!


Index


高い評価を得たメキシコという地域性



 2018年3月の第90回アカデミー賞において、長編アニメーション賞と、主題歌賞を受賞したディズニー/ピクサーの『リメンバー・ミー』。国際アニメーションフィルム協会(ASIFA)が主催するアニー賞でもリー・アンクリッチ監督とエイドリアン・モリーナ共同監督が映画部門監督賞を受賞、ほかにも作品賞、映画部門脚本賞、声優賞・編集賞・キャラクター・デザイン賞ほか11部門での受賞を果たし、2017年度を代表するアニメーションとしての地位を固めた。


 これほどまでに高い評価を得た理由はずばりメキシコという地域性にある。この作品が描くのは、日本のお盆と共通する「死者の日(Día de Muertos)」。毎年11月1日には子供の魂を、2日には大人の魂を迎える日として、メキシコの人々は華々しく死者の魂を祝祭するのだが、その独特の文化を多彩なデザインで見せることに成功している。子どもにとっては優れた死生観の入門映画となっていて、大人にとっても「死をもって生を感じるメメント・モリ」の映画として、深く心の琴線に触れる映画となっている。 


『リメンバー・ミー』予告


 ディズニーはこれまでも、『 ポカホンタス』(1995)では実在したネイティブアメリカンの女性の人生を題材にし、他にも『 ムーラン』(1998)では中国の伝説「花木蘭」をモチーフにした女性戦士の物語を、『 アナと雪の女王』(2013)では北欧神話、『 モアナと伝説の海』(2016)ではポリネシア神話をピックアップし、地域性に密着したヒロインの成長物語を積極的に描いてきた。だが、それは、特別な才能を持った女の子だから特別な体験を実現させられる、選ばれし者の成功体験という物語上の制約も抱えており、そこにうまくコミットできない観客にとっては疎外感を抱くというウィークポイントも付きまとっていた。


 だが、今回の『リメンバー・ミー』は2003年にユネスコの無形文化遺産に認定された「死者に捧げる先住民の祭礼行事」そのものにフォーカスをする。一人の少年が会ったこともない高祖父(ひいひいおじいさん)への思慕を募らせ、死者の国に迷い込んだことで、先祖の歴史を辿ると同時に、ディープなメキシカンカルチャーとも遭遇する。これがメキシコを知らない人にとっては強烈な異文化体験となる構造だ。


 奇しくも、この映画がアメリカ公開された2017年という年は、1月、アメリカ大統領であるドナルド・トランプが立候補の段階から選挙公約として掲げていたメキシコとの国境沿いに「通過不可能な具体的な障壁」を建設するよう大統領令で命令し、未登録移民の保護区となっている米国内の都市への連邦交付金を撤回する命令に署名した年。政治ではアメリカとメキシコを分断する壁についての議論が絶えなかった一年だったが、これに対して『リメンバー・ミー』のメッセージは、相互理解と愛と記憶さえあれば、死者と生者を分かつ壁さえも乗り越えられると徹頭徹尾謳いあげる。壁などない、それがこの映画の明快な意志だ。



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