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『オールド・オーク』巨匠ケン・ローチが田舎町の小さなパブを通じて突きつける素朴で力強いメッセージ

© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023

『オールド・オーク』巨匠ケン・ローチが田舎町の小さなパブを通じて突きつける素朴で力強いメッセージ

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力強く呼び覚まされる1984年の記憶



 内戦、移民、コミュニティ、労働、個人の尊厳。これらの社会的題材は過去のローチ作品で扱ったものである。なおかつここ数年の、イギリス北東部を舞台にした『わたしはダニエル・ブレイク』(16)や『家族を想うとき』(19)などの作品では、緊縮財政や福祉切り捨て、労働環境の変化によって脆弱な個人が苦境に立たされる姿が、息苦しく心震えるほどの筆致で描かれてきた。


 とりわけ有名なのは『ダニエル・ブレイク』のフードバンクのシーンだろう。入り口へ伸びる長蛇の列。そしてお腹を空かせるあまり、思わずその場で缶詰を開けて食べる女性…。その姿はいまだ思い出すだけで涙が込み上げるほど。ローチの作品には、人が職を失い、食べるものにすら困るという状況が、どれほど当人や家族の尊厳を傷つけ、損なうものなのか、という切実なまでの訴えが込められている。


 それにしても、まるでこの国の縮図のごとく多くの問題が吹き出す「オールド・オーク」において、町の分断を解消する手立てなどあり得るのだろうか。



『オールド・オーク』© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023


 観客の一人として少しばかり不安になっているさなか、本作が提示するのは「過去の歴史を思い出せ」という主張だ。


 不意に老朽化したパブの一室が開け放たれると、イギリスの炭鉱町の多くが共有する1984年の大規模ストライキ(『リトル・ダンサー』の時代背景としても広くお馴染み)の記憶が、ホコリかぶった数々の写真とともに呼び覚まされていく。


 当時、労働を拒否することによって収入はストップし、誰もがお腹を空かせて困窮していた。そんな窮地を救うべく組合員や地元民は「solidarity(連帯)」を合言葉に炊き出し活動を始めた。パブ内の一室こそ、まさにその歴史を伝える集いの場だったのだ。


 TJたちはあの頃の精神を取り戻そうと、もう一度、炊き出しを始める。もちろんこれで全てが解決するわけではない。しかし、炭鉱労働者がもっとも苦境に立たされながら結束に満ちたサッチャー政権下の歴史的闘争の記憶を、これまで長らく労働者の生活や状況を見つめてきたローチが最終的に持ち出したことが大変興味深い。きっと多くの人は「なるほど、そこに行き着くのか」とある種の感慨に包まれるのではないだろうか。




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