※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。
原作本を読んで以来ずっと心惹かれてきたキリアン・マーフィーが、主演のみならず初の映画プロデュースを担った一作である。
フィルモグラフィー的に見ると『オッペンハイマー』(23)と『決断するとき』(24)は隣同士。片や巨額の製作費を投じた歴史大作で、片やアイルランドを舞台にした名もなき男の小さな物語。完全にかけ離れた、正反対の作品のように思える。
しかし、一つだけ共通項があるとすれば、いずれも主人公が「気づき」を得ることだろう。オッペンハイマーは己の研究がパンドラの箱を開けるに等しい恐ろしいものであることに後から気づく。そして本作の主人公ビル・ファーロングも、ひとつの気づきによってこれまでの意識が180度変わっていく。

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修道院の中で目にしたもの
舞台は1985年、アイルランドの小さな町。
石炭業を営むビルは、5人の娘としっかり者の妻に囲まれ、決して裕福ではないが、食べるものには困らない暮らしを送っている。世の中は不況の煽りを受けてどこかほの暗い。クリスマスムードが商店街を華やかに彩る反面、街の隅々では食糧に困っている人たちも数多くいるようだ。
そんな矢先、ビルは石炭の配達で立ち寄ったカトリック修道院で、とある出来事に見舞われる。一人の若い女性から「助けてほしい」と懇願されたのだ。何もできず、ただ立ち去るしか術がなかった彼。しかしこの日を境に、彼の中で何かが音を立てて崩れ始め…。