歴史に刻まれたマグダレン洗濯所
このあらすじに触れると、新聞記者がカトリック教会のスキャンダル解明に挑んだ『スポットライト 世紀のスクープ』(15)などの社会派映画を思い浮かべる人もいるはず。しかし本作が描くのはもっと内面に寄り添った、繊細な心象ストーリーだ。
ただし、本編では説明的要素が削ぎ落とされているので、「マグダレン洗濯所」について知らない人には少し解説が必要かもしれない。
カトリック教会の影響力が強いアイルランドでは、未婚や婚外関係で妊娠した女性を保護したり、素行が悪いとみなされた少女を更生するなどの名目で運営された、修道院付属の収容施設が存在した。

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収容された女性たちが無償で従事させられるのは、膨大な量の洗濯作業。その中では身体的、精神的な虐待が行われたり、はたまた修道院側は生まれた赤ん坊を外部へ養子に出すことで収益を得たりもしていたという。決して昔話などではない。最後の洗濯所が閉鎖されたのは1996年。アイルランドの人々にとって身近で、今なお精神的トラウマであり続ける問題なのだ。
ちなみに、筆者がこの存在を知ったのは『マグダレンの祈り』(02)という映画がきっかけ。『FREWAKA/フレワカ』(24)というフォーク・ホラー映画でも、「アイルランド人にとっての”地獄”のたとえ」としてこの「マグダレン洗濯所」という言葉が聞かれた。
今更ながらハッとさせられる作品もある。例えば、スティーヴン・フリアーズ監督作『あなたを抱きしめる日まで』(13)。主人公フィロミナは若い頃に未婚のまま妊娠し、修道院へ送られた経歴の持ち主だ。公開当時は想像が及ばなかったが、よくよく考えるとこれも洗濯所の記憶が深く刻まれた作品である。