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『スマッシング・マシーン』無敵のヒーローを解体する、痛ましくも美しい“共感”

©2025 Real Hero Rights LLC

『スマッシング・マシーン』無敵のヒーローを解体する、痛ましくも美しい“共感”

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「言葉とスピード」に対抗する、「沈黙と肉体」



 『スマッシング・マシーン』は、これまでのサフディ兄弟の共同監督作や、兄ジョシュ・サフディの『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(25)のハイテンションとは、明らかにタッチが異なる。


 ロバート・パティンソンが演じた『グッド・タイム』のコニー、アダム・サンドラーが演じた『アンカット・ダイヤモンド』のハワード、ティモシー・シャラメが演じた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のマーティを思い返してほしい。


 彼らは総じて要領が良く、絶え間なく喋り続け、根拠のない自信に満ち溢れたダメ人間ばかり。常にトラブルを引き寄せ、周囲を巻き込みながら破滅へとまっしぐら。四面楚歌の状況を休むことなく駆け抜ける、外向的でアゲアゲな熱量に満ちている。


 それに比べて、マーク・ケアーはどうだろう。彼は口数少なく、寡黙で、自らの弱さを雄弁な言葉でごまかす術を持たない。しかし、その不器用な沈黙のなかに抱え込んだ底知れぬ恐怖が、観客には痛いほど伝わってくる。兄ジョシュが「言葉とスピード」で人間の極限状態を描破するのに対し、弟ベニーは「沈黙と肉体」でそれに対抗した。



『スマッシング・マシーン』©2025 Real Hero Rights LLC


 極端なクローズアップで、息の詰まるような感覚を味わわせた過去作と違って、カメラは決してリングの中に入らず、望遠レンズを使って外側からロープ越しに“覗き見る”ような客観的視点を貫く。それによって、見てはいけない瞬間を目撃してしまったかのような、強烈な没入感を生み出す。格闘技を題材に選びながらも、この映画の手触りは驚くほど繊細で、触れれば壊れてしまいそうなほど痛々しい。


 筆者が特に印象に残っているのが、試合に負けた彼の背中を延々とカメラが追いかける場面。これまでのサフディ作品の主人公─アダム・サンドラーやティモシー・シャラメであれば、マシンガンのように言い訳や悪態をまくし立て、敗北の事実から必死に目を逸らそうとするだろう。だが、ケアーは一切の言葉を発しない。巨大な背中を痛々しく丸め、声にならない感情を押し殺すように震わせながら、ただひとり絶望と格闘している。


 音楽にナラ・シネフロを起用したことも、重要ポイントだろう。サフディ兄弟の過去作といえば、ダニエル・ロパティンが手掛ける、心臓の鼓動を急かすような電子音楽がお馴染みだった。ノイジーで焦燥感に満ちたシンセサイザーが、主人公の狂騒を否応なく煽り立てていたとすれば、ハープを操るシネフロの幽玄なサウンドスケープは、内省的な静寂をもたらしている。


 格闘技映画にありがちな、高揚感のあるBGMとは対極にあるようなアンビエント・ジャズ。ダニエル・ロパティンが「都市のノイズ」を鳴らしていたのに対し、彼女の音楽は「内なる痛みの響き」として機能している。




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