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『スマッシング・マシーン』無敵のヒーローを解体する、痛ましくも美しい“共感”

©2025 Real Hero Rights LLC

『スマッシング・マシーン』無敵のヒーローを解体する、痛ましくも美しい“共感”

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『スマッシング・マシーン』あらすじ

1997年の総合格闘技デビュー以降、無敗のまま頂点へと駆け上がったマーク・ケアー(ドウェイン・ジョンソン)。UFCでの連覇を経て、日本のPRIDEでも快進撃を見せると「霊長類ヒト科最強の男」の異名で恐れられる存在となる。しかし勝利を重ねるほどに、その重圧は彼の心を静かに浸食。同棲する恋人ドーン(エミリー・ブラント)との関係も次第に悪化していき、鎮痛剤への依存を深めていく。やがて初めての敗北を喫した“最強の男”は、ついに自らの弱さに向き合い、人生の再起をかけもう一度リングに挑むことを決意する――。


Index


ザ・ロックが自ら叩き割った、無敵の鎧



 『スカイスクレイパー』(18)では燃え盛る超高層ビルへ向かってクレーンから大ジャンプを決め、『ワイルド・スピード ICE BREAK』(17)では飛来する巨大魚雷の軌道を氷上を滑りながら素手でそらす。『ランペイジ 巨獣大乱闘』(18)では巨大怪獣と真っ向からタイマン勝負を挑み、『ブラックアダム』(22)では神の力で軍隊を壊滅させる。


 我らがドウェイン・ジョンソンは、これまでどんな危機的状況に陥ろうとも、圧倒的な身体能力でねじ伏せてきた。常に勝利を約束されてきた無敵の男、ザ・ロック。しかし、『スマッシング・マシーン』(25)で彼が見せる姿は、我々の知る最強ヒーローとはあまりにもかけ離れている。


 本作で彼が演じるのは、MMA(総合格闘技)黎明期に活躍した伝説的ファイター、マーク・ケアー。強靭な肉体から繰り出される豪快なテイクダウンと、マウントポジションからの容赦ないパウンドで対戦相手を震え上がらせた、“スマッシング・マシーン”の異名を持つカリスマだ。


 だが、その破壊的なファイトスタイルとは裏腹に、ケアーの内面には溢れんばかりの優しさが宿っている。巨漢の選手を血祭りにあげて圧勝した直後でさえ、「大丈夫か?」と相手を本気で気遣うような男。監督のベニー・サフディが「ラディカル・エンパシー(究極の共感)」と呼ぶこの性質ゆえに、彼は相手の痛みに同調し、常に自らの在り方を深く内省する、知的で繊細な人物として描かれている。



『スマッシング・マシーン』©2025 Real Hero Rights LLC


 度重なる激闘で、肩や膝はボロボロ。恋人ドーン(エミリー・ブラント)との関係も、愛情とエゴの狭間でこじれている。本作に映し出されるのは、ひとりの男が心身ともに崩壊していく悲痛な姿だ。カタルシスに満ちた爽快サクセスストーリーとは、あまりにも程遠い。


 本作でメガホンを取ったのは、これまで兄ジョシュ・サフディと共に『グッド・タイム』(17)や『アンカット・ダイヤモンド』(19)など、崖っぷち人間のノンストップ狂騒曲を生み出してきたベニー・サフディ。彼にとって本作は、脚本・監督・プロデュース、さらには編集までを自ら手掛けた初の単独監督作となった。


 プロジェクトの発端は、2019年にさかのぼる。ドウェイン・ジョンソン自らが、2002年にHBOで放映されたドキュメンタリー「The Smashing Machine: The Life and Times of Extreme Fighter Mark Kerr」を片手に、「この男を演じたい!」と企画を持ち込んだのだ。サフディは、たちまちマーク・ケアーという人物に惹かれた。彼自身、かつて大成しなかった天才バスケットボール選手のドキュメンタリー『レニー・クック』(13)の編集を手掛けた経験から、栄光から脱落していく人々の内面に深い関心を抱いていたのだ。


 さらにサフディは、目の前にいる世界最大の映画スターの中に、ケアーと完全に通じる深い孤独を見出す。常に人々の求める完璧なヒーローを演じ続ける一方で、誰にも見せない痛みを抱え込んでいるジョンソンの素顔が、ケアーの姿と重なり合ったのだ。


 パンデミックの影響でプロジェクトは一度お蔵入りしかけたものの、サフディが俳優として出演した『オッペンハイマー』(23)の現場で、エミリー・ブラントと出会ったことから、運命が再び動き出す。彼女は『ジャングル・クルーズ』(21)でジョンソンとも共演経験があった。彼女を架け橋としてジョンソンと再び繋がったことで、この映画はついに本格始動したのである。



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