2018.11.16
監督の独自性を存分に解放させる製作スタイル
このようにして、かつては「危ないかも」と不安視されていた続編は、新たな傑作として世に放たれることとなったわけだ。正直なところを言うと、私は前作よりも圧倒的にこちらが好きだ。もう魂を鷲掴みにされたと言っていいほど圧倒された。そしてハイクオリティな脚本と最高級の俳優たちが集結し、なおかつ監督の持ち味やスタイルが思う存分に尊重されているところも素晴らしい。
もしかすると、このシリーズには続編だからといって前作のスタイルを律儀に踏襲しなければならないという制約がないのかもしれない。もちろんキャラクターやストーリーの核となる部分は大切にしながらも、しかしそれらも決して一箇所にとどまることはなく、常に変化し続ける。それゆえ監督は続編であることに縛られることなく、自己を思い切り解放させることができるのだ。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(c)2018 SO
さらに本作に関して言えば、一作目を観ていなくても心配はいらない。(二作目は)これはこれで一作品のうちで非常によくまとまっていて、独立したサスペンス・アクションとして楽しむことが可能だ。原題や邦題が『ボーダーライン2』などとナンバーリングされていないのはそのためなのだろう。
さて、続編がこれほどの完成度に仕上がったとなると、気になるのは更に向こう側の風景である。かくも大役を終えたばかりのソッリマは、『ボーダーライン』サーガの最終章についてこう言及している。
「私は次回作(第三作)を手がけることにはいっさいの関心がない。もちろん一人の観客としては心待ちにしたいと思うが、しかし監督を担うのはまた別の才能と感性を持った人であるべきだ。一人の人間が一作以上を手掛けてはいけない。そうなると単なるありきたりのフランチャイズに成り下がってしまうから」
シリーズ物はバトンリレーのようなもの。だがそこでしっかりと爪痕を残すには、それなりの覚悟と執念が必要だ。その点、妥協なくハリウッド進出を成し遂げたからこそ、彼はいま、いっさいの悔いなく全てを後進に託して去っていけるのだろう。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』予告
『ボーダーライン』以降のヴィルヌーヴが次々と傑作を打ち立て続けているように、ステファノ・ソッリマもいまやイタリア、アメリカ、双方にて巨大な台風の目となりつつある。Amazon製作のクライム・ドラマ「Zero Zero Zero」を皮切りに、彼はこれからも圧巻のスタイルにて独自の衝撃世界を繰り広げていけるはず。
まずは11月16日公開の『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』を心ゆくまで堪能した上で、ソッリマ自身の未来、そして彼が見事にバトンをつないだシリーズの今後にもしっかりと注目していきたいものだ。
参考:
https://ew.com/movies/2017/12/19/sicario-2-soldado-trailer-benicio-del-toro-interview/
https://screenrant.com/sicario-2-stefano-sollima-interview/
https://variety.com/2018/film/news/sicario-day-of-the-soldado-stefano-sollima-1202861781/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
11月16日(金)、角川シネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
配給:KADOKAWA (c)2018 SO
公式サイト: https://border-line.jp/
※2018年11月記事掲載時の情報です。