© 2025 LOS DESERTORES FILMS, A.I.E., TELEFÓNICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.,FILMES DA ERMIDA, S.L., EL DESEO DA, S.L.U., URI FILMS, S.L.,4A4
『シラート』荒々しい大地と己の内面が融合、“深淵”を臨む究極体験
深淵に飛び込むこと
興味深いのは、序盤のレイヴパーティーで踊る人々が皆、歓喜や熱狂に浸るのではなく、むしろ寡黙に、感情を振り絞るように蠢いていることだ。そして登場するキャラクターの中に「体の傷」をあらわにした者が含まれるのも気になるところ。
そこからロードムービーへ突き進むと、主人公は一つの絶望体験によって、意識や感情を内へ内へと向かわせる。眼前に広がる大地はある意味、精神の縮図。心と体に刻まれた痛みや傷と極限まで向き合い、己の弱さや無力さをひたすら見つめる。そうすることで得られるもの、たどり着く境地はいかなるものだろうか?
道は終わらない。誰もが「己は何者なのか」を問いながら、ひたすら希望や欲望や虚栄、恐れや弱さを捨て、無心になって一歩一歩を踏み締めていかねばならない。そのレベルに足を踏み入れ、究極の個となって自己を見つめることで、人は初めて本当の意味で存在意義やなすべきことに気づき、次の目的地へ進む意志を得るのかもしれない。

『シラート』© 2025 LOS DESERTORES FILMS, A.I.E., TELEFÓNICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.,FILMES DA ERMIDA, S.L., EL DESEO DA, S.L.U., URI FILMS, S.L.,4A4
それは単に私たちを取り巻く世界や内面にとどまらず、ラシェ監督がこの映画で挑んだ芸術的境地とも生々しく重なる。彼はとあるインタビューで「恐怖心はあったが、深淵に飛び込まなければいけないことは分かっていた」(参照1)と語っている。そしてクライマックスに関連して、アンドレイ・タルコフスキーの『ノスタルジア』(83)のラストについて言及しているのも印象的だ(参照2)。
本作に明確な答えは存在しない。ただラシェが言うように、彼にしか描けないやり方で「深淵」に飛び込んでいるのは確かだ。全身を貫く、計り知れぬ恐怖と緊張。だが一方で本作を通じて魂が濾過され、生まれ変わったかのような気持ちに包まれる自分もいる。
劇薬であり、救い。オリベル・ラシェ監督は、そんなアンビバレントな側面と腹に響く重低音を伴った、稀有な作品を築き上げた。
参照1:
https://apnews.com/article/sirat-oliver-laxe-interview-796cc412aa00d9fcb114a93bd7f7ce2d
参照2:
https://www.curzon.com/journal/director-oliver-laxe-wants-you-to-feel-sirat-in-your-body/
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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『シラート』
新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにてロードショー中
配給:トランスフォーマー
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