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『アワーミュージック』背中と正面の美学、例外的な死を想像する

©2004 AVVENTURA FILMS – PERIPHERIA – FRANCE 3 CINÉMA – VEGA FILMS

『アワーミュージック』背中と正面の美学、例外的な死を想像する

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例外的な死を想像する



 「シャン・コントル・シャン、シャン・コントル・シャン」。ゴダールのリズミカルな声が教室に響く。映画におけるショット・リバース・ショット(切り返しの構図)を意味するフランス語だ。この講義のシーンは、2002年にゴダールが参加した「ヨーロッパ文学の出会い」を、フィクションを交えて再現したものだという。ハワード・ホークス監督の『ヒズ・ガール・フライデー』(40)におけるケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルが電話機に耳を当てている2枚の写真が例として提示される。ホークスは男性と女性の区別がつかなかったと、ゴダールは述べる(『 ヒズ・ガール・フライデー』の原作は、2人の男性による物語)。隣同士に座っている生徒たちが、男性俳優と女性俳優の2つの写真を交互に提示する。ゴダールは言葉を続ける。「似かよっているから厄介なのだ」と。



『アワーミュージック』©2004 AVVENTURA FILMS – PERIPHERIA – FRANCE 3 CINÉMA – VEGA FILMS


 ゴダールは1948年のイスラエル建国の際のエピソードを語る。イスラエルに向かうユダヤ人の写真と土地を追われたパレスチナ人の写真を交互に提示する。「フィクションのイスラエル人とドキュメンタリーのパレスチナ人」。歴史のある瞬間を捉えた2つの写真が紙芝居的に手動で“モンタージュ”される。正面と背面。カメラ、編集機。ゴダールはイメージとイメージの間にあるものを、生徒たちと観客に意識させる。


「努めて物事を見ること。努めて物事を想像すること。」(『アワーミュージック』)


 ゴダールが瞑想的な言葉を話している間、オルガは目を閉じている。講義を終えたゴダールはサラエボを離れる。帰り間際の空港でオルガの撮ったDVD作品を手渡される。そして自宅のガーデニングをしている最中に、ゴダールはオルガの死を知らされる。オルガを追悼するように、美しい横移動撮影で映し出される花と花と花。エルサレムに向かったオルガは、映画館で自爆テロを演じる。オルガはイスラエルの警察によって射殺される。しかし彼女のバッグには本しか入ってなかった。サラエボで通訳を務めた男性は、ニュースになったこの女性はオルガに違いないと言う。ゴダールは若者への贖罪を滲ませるように、このシーンを撮っている(クリント・イーストウッドの『運び屋』(18)のガーデニングシーンは、本作へのオマージュのように思える)。戦争によって廃墟のようになったサラエボの図書館のシーンにあるように、書籍とは人の精神であり、無数の書籍の死とは、無数の精神の死を意味する。


 「天国」編でオルガは美しい川辺へと越境する。エアー・ビーチバレーをする若者たちが、彼女とすれ違う。しかし「天国」でさえ、兵士たちに守られている(『ゴダールのリア王』(87)における浜辺のシーンを想起させる)。皮肉のような世界ではある。しかしそれ以上に、このシーンには川の水が水であること、森の緑が緑であることの至上の幸福がある。私たちの音楽=私たちのあり方が再発明されることへの祈りがある。ここでもゴダールはイメージの正面と背面の両面を同時に提示している。「努めて物事を見ること。努めて物事を想像すること」。オルガの旅のパスポートがたどり着いた景色を見せることで、『アワーミュージック』は例外的な死の存在を想像している。この世に例外的な死の存在があるかどうかを問いかけている。


*1『Ensemble et séparés : sept rendez-vous avec Jean-Luc Godard』(2010)

*2[“The Godard Interview: I, A Man Of The Image”, Sight & Sound, June 2005]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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©2004 AVVENTURA FILMS – PERIPHERIA – FRANCE 3 CINÉMA – VEGA FILMS

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