2018.10.25
オタク心をくすぐるリアルな会話
このシーンと並び、多くのファンがお気に入りとして上げるのが、ショーンのコレクションの中からレコード盤を放り投げてゾンビを撃退するシーン。この場面は音楽ファンをニヤリとさせるに十分だが、こんなやりとりが繰り広げられる。
ショーン「レア盤は放るなよ」
エド「『パープル・レイン』は?」
ショーン「絶対ダメ」
エド「『バットマン』のサントラは?」
ショーン「投げていい」
エド「ストーン・ローゼズは?」
ショーン「ダメだ」
エド「『セカンド・カミング』だぞ?」
ショーン「俺は好きなんだよ」
音楽に疎い方にはちんぷんかんぷんかもしれないが、このやりとりはロック・ファンには大いにウケた。『パープル・レイン』はご存知、プリンスの代表作で、その後に彼がティム・バートン監督の『バットマン』のために制作したアルバムは一般的に評判はよろしくない。ライト監督も同様の考えで、『バットマン』のアルバムは結果的に、ショーンらの“武器”となってしまう。ストーン・ローゼズも傑作と言われるファースト・アルバムに比べると、次の『セカンド・カミング』は不人気。ここでのやりとりは、そんなロック・オタクの空気が反映されているのだ。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』© Photofest / Getty Images
このような少々マニアックなセリフが多かったことも、本作が日本でDVDスルーとなった理由のひとつだろう。とはいえ、ドラマの基本はあくまでも愛する者を救おうとするショーンの奔走と、その過程での成長だ。ショーンはほぼ最初から最後まで、勤務先の家電ショップの制服を身につけたままで、白いシャツはどんどん返り血や汗にまみれていく。これはライト監督によると、『ダイ・ハード』(88)のブルース・ウィリスのタンクトップ姿からインスパイアされたとか。ダメ男ではあるが、とにかく必死に頑張る主人公。そのような普遍的な設定が、共感を引きつけている点を見逃すべきではない。だからこそ、本作はファンに愛される作品となりえたのだ。