2026.07.22
誰しも思い当たる“恋愛あるある”が戦慄に変わる時
『オブセッション 災愛』に話を戻そう。柳の枝が折られた後、ベアとニッキーの関係性がどう激変していくか? ここはネタバレに抵触するため詳細は避けるが、ベアの「誰よりも僕を愛して欲しい」という願いが、相手からのお返しとして着実に、かつ過剰に戻ってくる事態を想像してみてほしい。これは、途中で『エクソシスト』(73)的なショック演出や、人間の生理現象を映像化したグロいショットを挟みつつ、すべての内気な若者たちに贈る教訓めいた“恋愛あるある”なのだ。
SNSで予告編を観て公開後すぐに劇場に駆けつけた若い観客たちが、ポップコーンを摘みながら、ある場面では凍りつき、またある場面では爆笑する姿が思い浮かぶ。本作はスクリーンの大きさや音響に関係なく、劇場で映画を観ることの至福を多くの映画ファンに思い出させてくれるきっかけになるかもしれない。
去年の『WEAPONS ウェポンズ』から始まった?
“おまじない映画”というジャンルがあるとしたら、同じ仲間には、主人公の少年が遊園地にあるレトロなコインゲームに「大人になりたい」と願った翌朝、望み通りの姿になって目覚めるトム・ハンクスの『ビッグ』(88)や、パーティの席上でインチキ魔術師に催眠術をかけられ、犬猿の仲だった男女が途端に惹かれ合うウディ・アレンの『スコルピオンの恋まじない』(01)があった。そして考えてみたら、去年公開され話題騒然となった『WEAPONS/ウェポンズ』(25)もこれに近い。あの時、木の枝をポキっと折って人々に呪いにかけたエイミー・マディガンは悲願のアカデミー助演女優賞を獲得してしまった。『ウェポンズ』は『オブセッション 災愛』の前兆だったのだろうか。
ちなみに、ニッキーを演じるインディ・ナヴァレッテは観客のトラウマになりそうな帰依演技で2026年のシアトル国際映画祭で最優秀演技賞を受賞。業界誌“Variety”の批評家、クレイトン・デイヴィスは早くも来年度のアカデミー賞候補として推している。監督のカリー・バーカーが撮影監督のテイラー・クレモンズと共に考案した、あえてセンターポジションで俳優の頭上に余白を持たせる、観客の不安を煽る個性的な撮影と演出も賞の対象になりそうだ。

『オブセッション 災愛』© 2026 Focus Features LLC.
既成概念を打ち破った先にあるもの
果たして、YouTube出身で20代の若手監督たちが今年相次いで放った異色のヒット作は、本当にハリウッド映画の潮流を変えられるだろうか? もちろん、従来メインストリームを形成してきたアメコミ映画や『スター・ウォーズ』シリーズ、またはロマンチック・コメディやホラー映画の製作者たちも皆、既成概念を打ち破ることに腐心してきたはずだ。しかし、少なくとも『オブセッション 災愛』や『バックルームズ』の監督たちは、さらにその先、見たこともないような世界へと観客を誘うことに見事成功している。『オブセッション 災愛』に関しては、既存のホラー映画に飽きたシネフィルたちに対して、また、恋することに躊躇する令和の若者たちに、告白する勇気を促す新手の恋愛バイブル映画として、自信を持って推奨できる。
アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。
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配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2026 Focus Features LLC.
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