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『よき谷の物語』よき精霊の物語、花の声と水の音によるポリフォニー

Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo © 2025

『よき谷の物語』よき精霊の物語、花の声と水の音によるポリフォニー

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植物との対話



 『よき谷の物語』は、モノクロのスーパー8フィルムで撮られたバルボナの風景から始まる。『シルビアのいる街で』を撮るにあたり、視覚的脚本といえる『シルビアのいる街の写真』(07)があったように、『よき谷の物語』にも『Primeras Impresiones(第一印象)』(23)という短編がある。このときの映像が本編に使用されている。何度も川に飛び込んで遊ぶ少年たちの映像が瑞々しい。リュミエール兄弟やジャン・ヴィゴの映画で展開されそうな、大らかなアナーキーさがある。


 地区のモノクロ映像に続き、小学校で行われるキャスティング・オーディションのシーンへと移っていく。オーディションで語られた住人たちの物語が、後の展開につながっていく。つまりゲリンは、映画制作のプロセスそのものを作品に取り込んでいる。まさしくゲリンが唱える“ワーク・イン・プログレス”の概念だ。この概念は『工事中』(01)の英題である。『よき谷の物語』の冒頭におけるモノクロの記録映像や鳩の映像は、この作品の流れをなぞっているといえる。本作のプロデューサーを務める『8月のエバ』(19)等で知られるホナス・トルエバのような、ゲリンより一世代年下のスペインのインディペンデント映画作家にとって、『工事中』はそれ以前と以後を分けるエポックメイキングな作品だったという。



『よき谷の物語』Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo © 2025


 バルボナ地区の住人たちの物語は、それぞれに響き合っている。妻を亡くしたアントニオが、残骸のようになった住居の跡地を訪れる。アントニオは妻の葬儀で、「さらば友よ」という曲を演奏したという。続いて、ファティマたちによるアコーディオンと手拍子による歌とダンスのシーンが挿入される。ゲリンはこの土地に生きる人々の“類似性”を、それぞれのシーンが韻を踏んでいくように探していく。植物との対話が、別の人物、異なる人種によって繰り返される。畑の収穫をするインド系移民の娘は、どんなときに植物と話すのか父親に尋ねる。父親は嬉しいときに語りかけると答える。泣きたくなるようなエピソードだ。植物の声に耳を傾ける。水の音に耳を澄ます。ゲリンが選んだ住民たちに共通するのは、音を聞くことと人生が密接に結びついていることであり、それはこの作品の作り方そのものと響き合っている。この土地で映画を撮るならどんな映画がいいか。ゲリンに質問されたチェックの帽子の老人は、西部劇がいいと提案する。ゲリンは自分との“類似性”をこの老人に重ねている。彼は、ゲリンの“分身”となる。





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