Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo © 2025
『よき谷の物語』よき精霊の物語、花の声と水の音によるポリフォニー
Index
風景の起源、スケッチの集積
風景の起源はどこにあるのか。ホセ・ルイス・ゲリンが『よき谷の物語』(25)で捉える風景には、集団の記憶としての風景と個人の記憶としての風景が交錯する。幼馴染の最愛の女性と結婚するために教会の司祭を辞め、石炭商になったアントニオにとって、バルボナ地区の寂れた風景は亡くなった妻の思い出と共にある。息子を失ったファティマにとって、彼女が育てたデイジーの花は、地上と天国を結び付けている。アントニオとファティマをはじめ、この地区に住む人々は、大きな歴史とは別の文脈で、それぞれに個人の風景を“開拓”してきたことが伝わってくる。私だけの風景。風景はアイデンティティとなり、生き方となり、起源となる。誰かがバルボナのことを蔑めば、彼らは決してそれを許さないだろう。

『よき谷の物語』Orfeo Iluso - Perspective Films - 3CAT - Los Ilusos Films - Los Films de Orfeo © 2025
バルセロナ郊外に位置するバルボナ地区は、水という資源に恵まれている。20世紀の農園計画は内戦の影響で中断され、この地区は無計画に放置されてきた。バルセロナという大都市に属する、高速道路や鉄道に囲まれた陸の孤島。住民同士の協力により、住居は無許可で建てられたという。豊かな緑と廃墟。そして丘の斜面が印象的なバルボナ。ここでは独自のコミュニティが築かれてきたことが伝わってくる。この地区に住む老人たち全員が、風景の開拓者のように思えてくる。
都市部より安く住めることで、低賃金の労働者や様々な移民が流れ込んでくる。ここに住む人たちは、必ずしも全員がオープンなつながりを望んでいるわけではない。ゲリンはこの多国籍な地区にかつて生まれたコミュニティ、そして生まれつつあるコミュニティを、理想化することなくスケッチしていく。人生の痕跡を集めていく。人々の歌や声の痕跡を集めていく。未完成のスケッチ=詩である『シルビアのいる街で』(07)の例に限らず、ゲリンの映画においてスケッチとは創作における最大の閃光だ。スケッチの集積は、やがて“合唱”となる。ポリフォニーとなる。“ワーク・イン・プログレス”。やがて移り変わっていく、進行中の景色への賛歌。