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『隣人たち』観客の視界を狂わせる、逃げ場のない心理迷宮

© 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『隣人たち』観客の視界を狂わせる、逃げ場のない心理迷宮

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逃げ場のない郊外という名の核シェルター



 舞台は1960年代初頭、ニュージャージー州の絵に描いたような郊外の住宅街。隣同士に住むアリス(ジェシカ・チャステイン)とセリーヌ(アン・ハサウェイ)は、同い年の息子を持つ大親友だ。しかし、セリーヌの息子がバルコニーから転落死した事故を境に、完璧だった日常は音を立てて崩れ去っていく。


 物語の大半は、アリスとセリーヌの二つの家の中だけで展開する。当時のアメリカ郊外は、中産階級向けに住宅が大量生産された時代だった。効率重視で建てられた家々は、どれも金型で抜いたように間取りが同じ。彼女たちが住む家は、鏡合わせのような存在なのである。


 この画一的な構造こそが、登場人物たちを外部から完全にシャットアウトする檻となる。安全圏であるはずの自分の家と、恐怖が渦巻く隣の家。本来なら天国と地獄ほど違うはずの二つの空間が、同じ間取りで構成されている。不気味すぎるこのシンメトリーが、決してここから抜け出せないという絶望感を否応なしに増幅させていく。



『隣人たち』© 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.


 鏡合わせの家で暮らし、同い年の息子を持つ彼女たちもまた、ドッペルゲンガーのような鏡像関係にある。アリスがセリーヌに向けて抱く恐怖の根底にあるのは、「一歩間違えれば我が子を失い、深い絶望に呑み込まれていたのは自分だったかもしれない」という自己投影。鏡合わせの相手を疑えば疑うほど、自己と他者の境界線は曖昧になり、自分自身すら信じられなくなっていく。


 この息詰まるご近所関係は、まるでキューバ危機に揺れる冷戦構造のよう。劇中、アリスとセリーヌの夫たちがケネディ大統領について語り合うシーンが挿入されているように、世界はまさに一触即発の危機にあった。美しく整備されたこの郊外住宅は、共産主義や核の脅威といった外部の敵から家族を守るための、いわば不可視の核シェルター。二つの家を隔てる生垣は、さながら鉄のカーテンなのだ。


 だが、そのカーテンはあまりにも脆弱。生垣には、かつて子供たちが遊び場にしていた秘密のトンネル(抜け穴)が存在する。悲劇を境にして、この小さな風穴から、堅牢なはずのシェルター内部へと外部の狂気が容赦なく流れ込む。ドス黒い疑念とパラノイアによって、対等に保たれていた二人の関係は、いともたやすく粉砕されてしまうのだ。




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