『隣人たち』あらすじ
1960年代アメリカ、大都市郊外の隣同士の家に住む親友のセリーヌとアリス。同い年の一人息子を持ち、完璧な幸せな生活を送っていたふたりだが、セリーヌの息子が不幸な事故に遭ったことで関係は一変。喪失感や罪悪感に苦しむ中、互いの行動に疑問を持ち始める…。
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信頼関係が生んだ奇跡の監督デビュー
映画作りはいつだってトラブルと隣り合わせだ。どれほど綿密に計画を練り上げても、現場では予測不能なアクシデントが牙を剥く。『隣人たち』(24)もまた、完成に至るまでの舞台裏が、映画に負けず劣らずスリリングだった。
そもそも本作は、ベルギー映画『母親たち』(18)のハリウッド版リメイクとしてスタートしたプロジェクト。オリジナルの監督であるオリヴィエ・マッセ=ドゥパスが引き続きメガホンを取るはずだったものの、撮影が始まるわずか4日前になって突如降板(家庭の事情のようだが、その理由について正式なアナウンスはされていない)。現場は絶体絶命のピンチに見舞われてしまった。
この危機を救ったのが、撮影監督として参加していたブノワ・ドゥロームだ。『青いパパイヤの香り』(93)、『博士と彼女のセオリー』(14)、『誰よりも狙われた男』(14)、『永遠の門 ゴッホの見た未来』(18)など、長きにわたって監督たちのビジョンを支えてきた彼だが、もちろん作品全体の舵を取る経験はゼロ。そんなドゥロームに、プロデューサーでもあった主演俳優のジェシカ・チャステインとアン・ハサウェイは、朝食の席で「監督デビューを果たす覚悟はある?」と打診する。
普通なら外部から新しい監督を招くところだが、さすがにこのタイミングではそんな余裕もない。撮影監督としてプロジェクトの根幹に関わっていたドゥロームならば、助走なしで飛び込めるはず。映画のビジョンをすでに共有していた彼こそが、窮地を救う唯一の切り札だったのだ。

『隣人たち』© 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
しかも、ドゥロームと主演俳優二人の間には、すでに深い信頼関係が築かれていた。彼は過去に『欲望のバージニア』(12)でジェシカ・チャステインと、『ワン・デイ 23年のラブストーリー』(11)でアン・ハサウェイとタッグを組んでいる。互いをリスペクトし合う間柄だったのだ。とはいえ、当の本人にとってはまさに青天の霹靂。あまりに突拍子もないオファーに最初は震え上がったという。しかし熟考の末、彼はこの大役を引き受けた。
「それはまるで美しい贈り物のように、2人の素晴らしい女優、優れた脚本、そしてすべての準備が整った状態で、お盆に載せて私に手渡されたのです」と、彼は当時を振り返る。「現場で監督が、“ブノワ、助けてくれ!”と言う場面に何度も遭遇してきました。私は生涯を通じて監督たちを助けてきたし、それが大好きだから、自分に“監督が病気になって、1日だけ代わりを務めなければならないことにしよう”と言い聞かせたのです」(※)。
撮影に用意された期間はわずか24日間。この超ハードスケジュールを乗り切るため、ドゥロームは1シーンにつきテイク2までという厳しいルールを現場に敷いた。迷う暇を与えないこの制約が、かえって俳優たちの集中力を極限まで高める。降って湧いたようなプレッシャーに呑まれることなく、彼は役者たちの生々しい感情を的確に引き出してみせたのだ。