これまで以上に物語性を掘り下げた脚本構造
これが磯部鉄平監督の手による作品というのも重要なポイントだ。もしもあなたが『コーンフレーク』(20)『凪の憂鬱』(22)『夜のまにまに』(23)やその他の短編作を体感したことがあるなら、過去作の包み込むような雰囲気を大切にしつつ、さらにもう一歩踏み込んだ語り口へ挑もうとする磯部監督の意欲をつぶさに感じるはずだ。
特に印象的なのは『夜のまにまに』で印象的だった夜の彷徨から、日中の眩いばかりの光が注ぎ込む昼の時間帯へと焦点を移動させていること。また本作では、これまで磯部作品の拠点だった大阪から東京へと舞台が移され、遠くにスカイツリーを臨み、幾つもの川や橋を越えていく街並みとともに、丁寧に練り抜かれた脚本、そして登場人物たちが、生き生きと躍動していく。
本作には初めて磯部作品に出演するフレッシュなキャストもいれば、磯部作品の常連俳優たちも続々と顔を出す。そこである瞬間にハッと気づくのだ。これら「嘘」や「レンタルビジネス」といった要素は、ある意味で「映画づくり」の投影でもあるのではないかと。

『嘘もまことも』©2025「嘘もまことも」製作委員会
個々が才能を持ち寄って2時間のアナザーワールドを構築する「映画」は、ある意味「巧妙につく嘘」と言いうるものだ。俳優たちの演技も、映像も、音も、美術も、全てが嘘と言ってしまえば、確かにその通り。しかし彼ら作り手や私たち観客は、この2時間の嘘に身を委ねながら、そこに何らかの真実の瞬間を見つけ出そうとする。それこそが映画の魔法であると、誰もが深く知っているから。
気づけば、本作でも磯部作品の代名詞たる「包み込むような夜」が優しく提示される。磯部組の常連俳優たちがその行方を探し続ける中、後半の中心人物となる少女はひとしきり悩み、迷い込んだ路地を魚のように泳ぎ、ここでもやはり誰かの助けを借りながら、水辺へと辿り着いていく。面白いのは彼女を支える常連キャストたちもまた、各々が「包み込むような夜」を過去の磯部作品で泳いだ経験のある者たちばかりだということだ。人から人へ。まるでバトンをつなぐように受け継がれていく役柄があり、思いがあり、真実の瞬間がある。
まるで深呼吸するみたいに、心の中が優しく柔らかな気持ちで満たされていく一作。これからもスタッフや俳優陣とともに歩んでいくであろう磯部作品。そこで進化していく部分、はたまた大切に受け継がれる部分、どちらも楽しみで仕方がない。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『嘘もまことも』
新宿K's cinemaほか全国順次公開中
配給:モクカ wisp
©2025「嘘もまことも」製作委員会