© 2024 ALVA FILM - INICIA FILMS - MARETAZO CINE – RTS
『マイ・リトル・クイーンズ』故郷を離れゆく家族の感情を、優しく柔らかく照らし出した秀作
2026.08.31
時に映画というものは、観客が想像もしなかった時と場所へといざない、そこで生きる人々の感情にどっぷりと浸らせてくれる。もしも私が『マイ・リトル・クイーンズ』(24)と出会わなければ、1990年代のペルーで生きる親子のことに、これほど深い思いを巡らせる機会など一生涯得られなかったはずだ。
ジャンルとしては家族ドラマ。決して誰かが死んだり、悲しみの事件に巻き込まれたりといった巨大なドラマが動くような作品ではない。でもだからこそ、そこに刻まれた家族のささやかな思いや表情といったものが、後になって像を結んで意味を持ち、じわじわと胸に迫ってくる。
Index
不透明な社会情勢の中での家族の決断
時は1990年代のリマ。ペルーでは深刻な経済危機と治安悪化を受け、国民が当時の政権にNOを突きつけた。代わりにアルベルト・フジモリが選挙で地滑り的な勝利を収め、大統領に就任する。
本作の冒頭は、政権誕生からまだ間もない頃。さっそく価格調整などの厳しい経済政策が押し進められる中で、テレビ画面では政治家が国民に向けて物価の上昇を宣言している。それも10円、20円のレベルではなく、砂糖や牛乳といった日用品が、この24時間以内にこれまでの倍以上に値上がりするというのだ。

『マイ・リトル・クイーンズ』© 2024 ALVA FILM - INICIA FILMS - MARETAZO CINE – RTS
これから国がどうなっていくのか誰にもわからない。そんな未来の不透明さゆえ、国民の中には国外移住によって新たな仕事と暮らしを求める者も多く存在した。この映画でカメラが向けられるのも、まさにそんな一家だ。母エレナはアメリカのミネソタ州で何らかの仕事に就くチャンスを得て、近いうちに二人の娘を連れて旅立つ予定。ただし出国のためには、手続き上、別れた夫カルロスの承諾のサインが必要だという。
これまで家庭を顧みず、娘たちと会う機会もないまま、身勝手に生きてきたカルロス。久方ぶりに家族の前に現れた彼は、何かと理由をつけてサインの機会を先延ばしにし、まだ素直に打ち解け合えていない思春期の娘たちを「女王様たち」と呼び、ビーチへ車を走らせるのだが…。