『トレンケ・ラウケン』あらすじ
アルゼンチンの片田舎トレンケ・ラウケンで、ひとりの植物学者の女性ラウラが姿を消す。取り残された二人の男たち―恋人のラファエル、同僚のエセキエル―は、彼女を追って町や平原をさまよう。彼女はなぜいなくなったのか。この土地には何が眠っているのか。映画が進むにつれ物語は予想のつかない多方向へひろがり、謎はさらなる謎を呼び、秘密は秘密として輝きはじめる―。
遥かアルゼンチンから日本に流れ着いたこの得体の知れない長大な映画は、たとえるなら霧をつかもうとするような作品だ。
決して難解だとか、不条理だという意味ではない。むしろわかりやすいし、誰もが楽しめて、登場人物も共感可能な人たちばかり。しかし、ラブストーリーと呼ぶにはあまりに謎めいているし、だからと言って、ただ単純なミステリーとしてカテゴライズするのもどこか気が引ける。そもそも本作において、何が謎で何が真相なのか。私たちがどれだけ手を伸ばしても、指先は”答えらしきもの”に全く触れられないまま、空を切るのみ。
Part1とPart2合わせて4時間を超える物語を見終えたばかりの筆者に先輩風を吹かせる気など毛頭ないが、それでもあえて伝えたいのは、「答え」に囚われ過ぎないでほしいということ。それに尽きる。何が正解だとか、間違いだとか、そんなものに囚われることなく、まずは自分の中でありのままに受け止めてほしい。
すると、いつしか黄昏時の水辺を歩いている時のように心地よく、穏やかな風が吹き始める。それは「丸い湖」を意味するトレンケ・ラウケンという街が、あなたを受け入れ、密かに呼応しはじめた合図に違いない。
『トレンケ・ラウケン』
Index
失踪した女性と、彼女を愛する男たち
物語はトレンケ・ラウケンに滞在していた植物学者の女性の失踪から始まる。彼女の名はラウラ。ある日、町外れのガソリンスタンドで車を乗り捨て、忽然と姿を消した。その行方を二人の男たちが追っている。一人はラウラの恋人で同僚の植物学者ラファエル。もう一人は彼女に思いを寄せるチーチョ。車のワイパーには見覚えのある筆跡で「さようなら、さようなら、じゃあね、じゃあね」とのメモが挟まっていた。
かくも場所から場所へ、人から人へと訪ね歩く探偵小説のような展開がありつつ、かと思うと、チャプター形式の物語は時間を遡り、ラウラがまだ街にいた頃の日々を映し出す。
この街で希少性の高い植物について調査している彼女は、並行して地元ラジオ局のニュース番組内で「歴史を作った女性たち」というコーナーに出演中だ。日々題材を探す中、図書館で手にした一冊の本。そこに恋人たちの忍ぶ愛の痕跡を見つけたのがきっかけで、ラウラは数十年前に起こったであろうミステリアスなラブストーリーに引き寄せられていく。そのうち、謎を共有し、一緒に探索し始めたチーチョとの間にも、ほのかな愛情が芽生え始め・・・。