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『トレンケ・ラウケン』語り口を変えておおらかに進化し続ける、4時間超えの異色作

『トレンケ・ラウケン』語り口を変えておおらかに進化し続ける、4時間超えの異色作

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刻々と進化していく物語



 本作における最大の特徴を挙げるなら、それは”進化”していくことだろう。はじめはミステリー風に始まったかと思えば、ラブストーリー、メロドラマへと転じ、Part2になるとさらに語り口は変わり、水辺で発見された異様な生物をめぐるSFチックな展開へ移ろっていく。すべては違和感なく緩やかに繋がっているのだが、すべての旅を終えて改めて振り返ってみると、その変貌の過程はやはり他では見られないほど異色だ。


 なぜこの物語は変わり続けるのか。一つの理解の手がかりとなりそうなのが、本作の脚本執筆時にラウラ・シタレラ監督が妊娠、出産を経ていたという背景である(*1)。


 日々変わる体のコンディションや、胎内で徐々に育ちゆく命。本作が変貌していく過程には、そういった子供の成長にも似た、緩やかでたくましく、それでいてミステリアスですらある特性が脈打っているのではないだろうか。


 そして本作には、他にも大きなお腹を抱えた女性たちが登場する。彼女達はそれぞれ<異なる物語の層>で生きる人たちではあるものの、しかしどこか層を超えて繋がり、重なっているかのようである。



『トレンケ・ラウケン』



何かを受け取り、連鎖していく



 聞くところによるとこの映画は、シタレラが初めて監督した長編作『オステンデ』(11)のエッセンスを踏襲しているという。プレス資料に掲載されているシタレラの言葉を借りると、これらは共に「ブエノスアイレス州の異なる街で、異なる人生を送る同一人物を描くというアイデアのもとに作られた一連の作品の一篇」なのだとか。


 ならばここにも何らかの理解の手掛かりがあるかもしれない。私は『トレンケ・ラウケン』(22)の4時間に加え、『オステンデ』も観てみることにした。主演は同じくラウラ・パレーデス。役名もやはりラウラだ。


 彼女は滞在先のホテルで、物憂げな顔をして過ごしている。かと思えば、好奇心のままに隣室の話し声に耳を澄まし、海辺やプールサイドで歳の離れた不可思議な男女を見かけるたび、彼らが一体どんな関係性なのか静かに想いを馳せる。


 『トレンケ』との関連でいうと、ふとしたきっかけで主人公の身に興味関心の種が飛び込んでくるという共通点がある。それらは感性を刺激し、抗いようのない衝動となって、イマジネーションを膨張させていく。


 結局のところ主人公は、一連の男女の顛末を最後まで見届けることはしない。全ては宙ぶらりんで、曖昧なままだ。しかし確かなのは「何かを受け取った」という事実。その瞬間、人は受け身でなく、なにかしら感応し、能動的な存在となる。そこからきっと新たな物語が起動し始めるのだろう。


 これを『オステンデ』における想像力の連鎖作用と呼ぶならば、それは『トレンケ・ラウケン』でより複層的なものとなって脈打ち、この世界を覆い尽くしているかのようだ。





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