© 2024 ALVA FILM - INICIA FILMS - MARETAZO CINE – RTS
『マイ・リトル・クイーンズ』故郷を離れゆく家族の感情を、優しく柔らかく照らし出した秀作
2026.08.31
大人になりきれない父親の憎めなさ
この映画に触れながら気づいたことがある。通常だと、いわゆる「旅立ち」を描く物語は、移り変わる景色を楽しみ、ゆくゆくは主人公が新たな暮らしに踏み出していく様を見届けるのが王道パターン。しかし本作は目的地に着くどころか、ペルーの国境線すら越えようとしない。着目点をややずらし、旅そのものではなく、旅立とうとする瞬間にどっと押し寄せてくるあれこれを、極めてさりげないシンプルに描き出そうとするのだ。
核となるのはやはり父親のカルロスだ。口を開くと出まかせばかり。自分の本業は俳優だとか、ジャングルでの危険な商売だとか、はたまたスパイだとか、一方的に喋り続けて、ただただ相手を煙に巻く。

『マイ・リトル・クイーンズ』© 2024 ALVA FILM - INICIA FILMS - MARETAZO CINE – RTS
序盤はそんな態度が観る者をイラッとさせるかもしれない。でもやがてこの嘘やサイン先延ばしの遅延行為になんら裏の意図はなく、ただ自分なりに娘たちを楽しませ、彼女たちのそばで父として過ごしたいだけなのだとわかると、途端にぎこちなさと、やるせなさと、大人になりきれない不器用な優しさとがあいまった柔らかな風が吹き始める。
言いたいことがなかなか口にできない父。悲しいのになぜか笑顔を浮かべてしまう父…。別れが迫る中でのこうした姿は、まるで大事な宿題を後回しにする子供だ。ふと思い出したのは、イギリス映画『aftersun/アフターサン』(22)のこと。本作には同様のテーマ性と、言葉で言い表すことのできない繊細な感情とが入り組んでいるかのようだ。