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『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』ブラジルの精神史を映し出す、その人生

© GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』ブラジルの精神史を映し出す、その人生

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「山のブラジル」とも呼べる音楽



 アカデミー賞・国際長編映画賞を受賞した、ウォルター・サレス監督によるブラジル映画『アイム・スティル・ヒア』(24)を既にご覧になっただろうか。まばゆい太陽と爽やかな海風が吹き抜けるリオデジャネイロの海岸沿い……。一見すると自由で享楽的な都市の風景の裏側で、1970年代の軍事独裁政権がもたらす暴力が、ある家族の日常を窒息させるように締め上げていく。


 そんな恐怖や悲しみと対峙する家族を慰めていたのは、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、エラズモ・カルロス、ホベルト・カルロスといった、ボサノヴァ誕生以後に隆盛したMPB(ブラジルのポピュラーミュージック)のミュージシャンが奏でる音楽だった。ここで紹介するドキュメンタリー映画『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』(25)は、そんなMPBの中心人物の一人である、通称「ビトゥーカ」ことミルトン・ナシメントを扱ったもの。2022年に行なった、ブラジルから欧米17都市を巡る最後のワールドツアーの模様を中心に、彼の人生をたどる内容になっている。



『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon


 『アイム・スティル・ヒア』が、映像と音楽を含め、都市部と沿岸部の「海のブラジル」と称されるならば、ミルトン・ナシメントの音楽性は、ブラジルの深奥へと続く土地の村々や、古い石造りの教会が点在する内陸部、ミナスジェライスの「山のブラジル」と表現することができる。彼らの音楽はカトリックの讃美歌の厳かさと、大地の力強さを宿している。


 この二つの世界を繋ぐ存在が、『アイム・スティル・ヒア』に出演していた国民的俳優、フェルナンダ・モンテネグロだ。本作『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』のナレーションを務めているのもまた彼女である。ブラジルの記憶の象徴ともいえるモンテネグロの声が、海と山、ふたつの同時代のブラジルを繋いでいる。





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