© GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon
『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』ブラジルの精神史を映し出す、その人生
2026.07.15
60年に及ぶ音楽人生の軌跡
本作は、ライブの高揚感をスクリーンに投影した、いわゆる“コンサート映画”ではない。115分の上映時間のなかで大きな比重を占めているのは、彼の60年にも及ぶ音楽人生の軌跡と、その特異な音楽性の深掘り、そして彼を敬愛する大勢のミュージシャンや文化人らによる証言のパートである。

『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon
登場する証言者は、総勢57名にも及ぶ。カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルといったMPBの大物たちはもちろん、クインシー・ジョーンズ、ウェイン・ショーター、そしてビトゥーカとともにあった「クルビ・ダ・エスキーナ(街角のクラブ)」の仲間たち。さまざまなジャンルの音楽家たちが彼の音楽性や功績を語り、ハービー・ハンコックやエスペランサ・スポルディングらとの共演も映し出される。パット・メセニー、セルジオ・メンデス、ポール・サイモン、さらには映画監督のスパイク・リーまでもが顔を揃える。これらビッグネームを耳にすれば、どれほどビトゥーカが世界の音楽や文化に影響を与えてきたかが実感できるだろう。
なぜ、彼はここまで敬愛されているのか。それは、MPBという枠や、ジャズやロック、民族音楽などの枠をも飛び越えて、その音楽性が唯一無二のものに昇華されているからだ。ブラジルの響きを持ちながら、彼の音楽は村の聖歌とジャズの即興が重なり、ブラジル音楽の草分け的な存在であるヴィラ=ロボスと、ビートルズが溶け合っていると言われる。