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『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』ブラジルの精神史を映し出す、その人生

© GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』ブラジルの精神史を映し出す、その人生

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ブラジルの精神史を映し出す、その人生



 2022年時点で80歳となり車椅子で移動するようになったビトゥーカが、ニューヨークの河岸、マンハッタン・ブリッジとブルックリン・ブリッジを眺められる地点で、自身が世界的に広く知られるきっかけとなった代表曲の一つ「Travessia」(英語詩バージョン「Bridges」)を口ずさむ一場面が印象的だ。ジャズミュージシャンを魅了した彼が必然的にアメリカを訪れたように、音楽という“橋”によってさまざまな土地に渡ってゆく……故郷の記憶と自身のルーツを背負いながら、自分が拓いた旅路をゆくことこそが、ミルトン・ナシメントの人生だったことが伝わってくる。


 そんなビトゥーカに憧れた、大勢のアーティストたち。エスペランサ・スポルディングやリアン・ラ・ハヴァスら、より若い世代の才能ある人々が彼の音楽性を咀嚼し、新たな旅路をいく姿も映し出される。フェアウェル・コンサートのファイナル、ミナスジェライスのサッカースタジアム、ミネイロンでのステージで派手な花火が打ち上がり、本作のエモーションは最高潮に達する。



『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon


 かつて彼が村で放っていた歌声が、50年以上の時をかけて世界中を旅し、巨大な残響となって彼の元へと還ってきた。山々にこだまするエコーのように、その声がブラジルの大地から果てしない星空へとさらに響いていくような高揚感。旅路のなかで出会った仲間たちや、若い世代の才能とともに、ブラジルの聴衆たちとともに、故郷でキャリアの集大成を迎えたビトゥーカ。これ以上の充実感に満ちた一瞬があるだろうか。


 本作で語られたように、彼自身がブラジルの一側面であるならば、その人生を振り返る内容は、まさにブラジルの一時代の精神史を映し出したものだといえる。この映画で彼の業績を知識として知り、彼のこれまでの曲を聴くこと。そして、彼の音楽に影響を受けた世界のミュージシャンたちの曲を聴くことは、ブラジルの歴史やアフリカの記憶、そしてそれらの精神が世界と繋がっているという実感を得ることでもある。


 音楽を感覚で楽しむだけでなく、歴史という縦軸、地理という横軸によって背景を知ることで、音楽が表現する世界は、さらに多次元的な広がりを見せる。本作『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』は、そんな豊かな広がりを観客に与えてくれる一作なのである。



文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter:@kmovie



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作品情報を見る



『ビトゥーカ ミルトン・ナシメント フェアウェルツアー』

絶賛上映中

配給:リアリーライクフィルムズ パルミラムーン

©️ GULLANE ENTRETENIMENTO S.A / ReallyLikeFilms + Palmyra Moon

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