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言葉から映像、そして体感へ
海を題材にした名著にはアーネスト・ヘミングウェイの「老人と海」、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」をはじめ、目の前で繰り広げられる壮絶な世界と、背後に広がる人間の生き様を、畏怖の念すら込み上げるほどの筆致で描きこんだものが多い。
ピューリッツァー賞受賞作家ダニエル・クラウス(彼は原作のみならず、映画版の共同脚色も担当)が著した「Whalefall」は、ある意味、これらのアメリカ文学の巨星たちの伝統や影響を血肉として取り込んだかのような、荘厳で深遠な世界観を持った一作と言えるだろう。
ここで描かれる、主人公がひとつの限定領域に閉じ込められ、そこから逃れようとする死闘は想像を絶する。その上、原作において「言葉」で詳述されていた心情や情景が「映像」へと変貌を遂げる時、リアリズムに徹した本作は、もはや目の前の状況への理解が追いつかなくなるほどの圧倒的な「体感」となって我々を覆い尽くしていく。

『クジラに落ちた男』©2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
青年が巻き込まれた想像を超える運命
舞台となるカリフォルニア州モントレーといえば、かつてスタインベックが自身の小説のタイトルにも据えた「キャナリー・ロウ」(かつてイワシの缶詰工場が立ち並んでいた通り)を擁する海辺の地。この近郊に位置する荒々しい波が打ちつける足場の悪いモナステリー・ビーチから、ダイビングスーツに身を包んだ主人公ジェイ(オースティン・エイブラムス)の果てしなき潜水は始まっていく。
彼にはかつて凄腕ダイバーの父(ジョシュ・ブローリン)がいた。地域の人々の厚い尊敬を集めながらも、ジェイにだけはいつも厳しく、自らの生き方を鎖で押し付けるかのように接し続けた父。父子の関係はやがて複雑にこじれ、いつしか子は呪縛から逃れるように、家を出た。一方の父は不治の病に冒され、最後は愛する海と共にあることを望み、自らの意志で深海へ沈んで生涯を終わらせた。すっかり白骨化しているであろう遺体はまだ見つかっていない。
一年後、久々に帰郷したジェイは、母や姉たちのためにもなんとか父の遺骨を探し出したいと海へ潜る。だが、彼は思いがけずイカとマッコウクジラの攻防に巻き込まれ、ふとした拍子にクジラの口内へと吸い込まれてしまう。咽喉部分から胃の中へ押しやられ、湧き出る酸に体を焼かれ、メタンガスに苦しむ中、ボンベが供給する酸素量はあと1時間ばかし。閉所空間の闇ですっかり打つ手がなくなる中、ふと脳裏に蘇ってきたのは父の言葉だったーーー。