© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025
『URCHIN/アーチン』鋭い観察眼とユニークな人物描写が魅力、俳優ハリス・ディキンソンの初長編監督作
2026.11.04
作品に刻まれた、現実のループ構造
そしてもう一つ。本作の究極の面白さは「現実世界のループ構造」を巧みに指し示しているところだ。すなわち、社会や制度がうまく機能していないとき、人はどれだけ切実に「変わりたい」と望んでも、いつしか重力に押しつぶされ、地べたに這いつくばり、気がつくとこれまでと何ら変わらない「くの字」で目を覚ますことになる。社会派リアリズムの形を取る一方で、この映画には物事を超俯瞰で構造的に捉えようとする思考が働いているのだ。

『URCHIN/アーチン』© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025
そこで私はふと感じた。かつてディキンソンが出演した傑作『逆転のトライアングル』も、ある意味、そのような社会を超俯瞰で捉えるタイプの作品ではなかったかと。聞くところによると、ディキンソンは数々の才能あふれる監督の作品に出演するたび、各現場でタイミングを見計って、監督に映画の撮り方について尋ねたり、自身の企画についてアドバイスを求めることが多いのだそうだ。とすると、『逆転のトライアングル』の鬼才リューベン・オストルンドと多くの会話を重ねたことは間違いなく、その影響が及んでいる可能性も少なからずある。もちろん、想像の域を出ない話ではあるが。
かくも主人公の心と身体を通じて映し出された一つの作品世界。それは、たとえ小さな箱庭だとしても、今後のディキンソン作品を形作っていく上で確かな礎となるだろう。俳優として、監督として、さらに大化けしていく過程をじっくりと見守りたいものである。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『URCHIN/アーチン』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
© Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025