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『もしもの愛』韓国社会のシビアな現実を背景に忍ばせた、漂う抑制力の効果

Netflix映画『もしもの愛』

『もしもの愛』韓国社会のシビアな現実を背景に忍ばせた、漂う抑制力の効果

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 ドキュメンタリー映画監督のイェジが会社を解雇されたホソクと妻のミオクに興味を持ち、2人を新作ドキュメンタリーの主人公にすべく動き始める。今も解雇時に受けた心の傷を引き摺るホソクの抵抗感を和らげるために、イェジはホソク夫婦と息子のチョルを、裕福な実業家である夫、サンウが所有する韓国西海岸にある豪邸に招待する。やがて、カメラを回り始めると次第に2組の夫婦の間に横たわる埋め難い溝が露わになっていく。


 監督のイ・チャンドンにとって『バーニング 劇場版』(18)に続く8年ぶりの長編映画『もしもの愛』(26)は、韓国の格差社会をテーマにはしているが、だからと言って、先行の『パラサイト 半地下の家族』(19)や『しあわせな選択』(25)のような破壊力はない。観客が早く知りたい登場人物のバックグラウンドを焦らすようなフラッシュバックで見せつつ、メタ的な人物描写によって想像力と緊張感を掻き立てていくスタイルは、社会派リアリズムドラマに分類される本作に独特の深みを与えている。


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4人+1の登場人物にフォーカスする



 4人の男女について詳しく紹介しよう。イェジ(チョ・ヨジョン)はスタイリッシュな服が似合う気鋭の映像作家で、社会問題を扱ったドキュメンタリー映画を制作するために、ヘッジファンドの経営者である夫からの資金援助をあえて拒否し、公的助成金を求めている。イェジは不幸な労働者階級のホソク夫婦が絶好の被写体になると考え、レストランでダブルデートをセットアップした後、プライベートビーチ付きの夫の実家への週末旅行に誘う。そこでミオクと酒を酌み交わすのを見た夫から、「インタビュー対象者と親密になるためのメソッド演技だ」と揶揄されたイェジだが、「私は彼らを愛そうとしている」と即行で否定する。


 ミオク(チョン・ドヨン)は会社から解雇されたことで心に深い傷を負った夫ホソクを支え、寄り添おうとしている陽気な妻だ。身分の違いも気にせずイェジと親しくなったのは、そんな彼女の性格故だろう。ミオクはイェジのファッションセンスを称賛しつつも、生活に困窮する人々を撮影する時には、そのような装いは受け入れられないかも知れないと忠告する。



Netflix映画『もしもの愛』


 ホソク(ソル・ギョング)はかつての青春時代、流行りのK-POPダンスでミオクの心を射止めた男だ。溶接工として働いていた頃には、寡黙ながらも温厚な性格が周囲に愛され、同僚たちを自宅に招いて酒を振る舞ったこともあった。しかし、2年前の人員削減で職場を追われて以来、ほとんど口も聞かず、酒に溺れるばかりだ。解雇された労働者が集まるカウンセリングに出席はするが、途中で部屋から飛び出してしまう。ホソクはイェジのインタビューに渋々応じるが、そこで溜め込んでいた怒りを爆発させる。パニックを起こした彼は会社からも、そして、組合からも裏切られた悔しさを口にする。一方で、ホソクはそうなることを予測していたのか、カメラが回る前にミオクに部屋から出ることを促す思いやりも忘れてはいなかった。


 豪邸の主であるサンウ(チョ・インソン)は成功を絵に描いたような実業家だ。ミオクはサンウを見てアップルの創業者、スティーブ・ジョブズに似ていると呟く。それはあながち当たっていなくもない。サンウは最新の取引の成果を、来客の存在を無視して携帯電話で話すような男である。勿論、そこに悪意はかけらもないのだが。


 ホソクとミオクの息子、チョルが豪邸の管理人小屋に忍び込み、モニターに映し出される大人たちの様子を静かに見入っている。イェジのホソクへのインタビューが続く中、1台のカメラが家を抜け出してビーチをそぞろ歩くミオクとサンウの姿にフォーカスしている。そんな大人たちを見てチョルは何を感じ取っているのだろうか。



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