イ・チャンドンが映像に認めた、愛と映画の可能性
イ・チャンドンは2つの印象的なシーケンスの繋がりを、分かりやすく説明することはしていない。観客の想像力に任せようというスタイルは、人物描写に於いても貫かれている。完全に破綻しているように見えるホソクとミオクにも再生の余地があり、あくまで映画の素材として利用した夫婦に対するイェジの興味が、もしかして、あくまでももしかして、共感に変わる瞬間が訪れるかも知れない。少なくとも、監督の演出からはそんな匂いが感じ取れる。本作が『もしもの愛』、原題は『POSSIBLE LOVE』と銘打つ理由が分かる。

Netflix映画『もしもの愛』
イ・チャンドンは同時に、映画というメディアの可能性も示唆している。グループセラピーがいたたまれなくて抜け出したホソクが、カメラの前では本音をさらけ出す。人と人とが面と向かってではなく、間にカメラを挟むことによってそれまで語られなかったことが開示され、スリルに満ちた時間がゆっくりと回り始めるのだ。
韓国社会の悲劇的、絶望的な現実をドラマチックな展開に繋げず、背景に忍ばせることによって高い評価を獲得している『もしもの愛』は、先の第83回ベネチア国際映画祭で審査員大賞と国際批評家連盟賞を同時に受賞し、来る第99回アカデミー賞の国際長編映画部門に韓国代表としてエントリーしている。本年度は3つの時代を行き来しながら3人の男性がゲイとして生きる意味を探求するスペイン映画『La Bola Negra』が強力なライバルだが、果たして!?
参考文献
https://www.koreaherald.com/article/10889220
アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。
Netflix映画『もしもの愛』
一部劇場にてNetflix独占配信(11月6日(金))に先立ち先行公開中