2018.11.19
行間から滲む人生のルーザーたちへの共感
最後に監督の話を。この物語は、脚本家でこれが監督デビューとなったスティーヴ・グローブスの実体験に基づいている。名門U.C.L.A.に入学したものの、学費稼ぎのためにバイトに追われていた彼は、結局大学は2年で中退。その後、売れない脚本家時代を地方の安ホテルで過ごすことが多かったとか。そんな時、気分転換のためにホテルのラウンジに下りて行った彼は、そこで、ピアニストの演奏にしばし耳を傾けていた。ピアニストのレベルはぴんきりだったが、中にはラウンジで演奏するのは勿体ないような才能の持ち主もいた。そこから目に見えない彼らの人生に思いを巡らせ、やがて、脚本として結実したのが『恋のゆくえ』だったというわけだ。
『恋のゆくえ╱ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(C)Gladden Entertainment Corp. 1989
ミシェル・ファイファーのセクシーなパフォーマンスと、ブリッジス兄弟の個性が際立つ物語の行間から、絵に描いたようなサクセスとは無縁の人生を営む、愛すべきルーザーたちへの共感と、そこはかとない人生の悲哀が透けて見えるのは、スティーヴ・グローブス自身の体験がベースになっているから。寒さが増す秋の宵に、改めて鑑賞するのにベストのチョイスではないだろうか。
文 : 清藤秀人(きよとう ひでと)
アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。
『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』
Blu-ray 発売中 発売・販売元:キングレコード
Blu-ray:¥2,500+税
(C)Gladden Entertainment Corp. 1989