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『ヒューゴの不思議な発明』 実は3Dの超マニアだったマーティン・スコセッシ!
2018.12.03
CGと実物大セットの使い分け
『ヒューゴの不思議な発明』を開始するにあたって、スコセッシ組のスタッフはCGだらけのバーチャルな環境での作業を嫌った。そのためプロダクションデザイナーのダンテ・フェレッティは、物語の主要な舞台となるモンパルナス駅と、そこにあった蒸気機関車などを実物大で再現した。特に、駅コンコースや入場口の大時計、外の時計台などは、実際に稼働する歯車機構(*4)が組み立てられている。
これだけ大量のセットを組みたてるために、英国を代表するパインウッド・スタジオとシェパートン・スタジオに加え、2006年に創業したばかりのロングクロス・スタジオも使っている。そうは言っても、ステージのサイズには限界があり、また窓外の風景や画面奥を歩いている人々などの描写も必要になる。そこで、ドイツに本社を持つピクソモンド社(*5)が、グリーンバック合成でセットエクステンションを行っている。冒頭3カットの一部だけILMも手伝っているが、残り約850カットのVFXのほとんどをピクソモンドが手掛けた。
『ヒューゴの不思議な発明』 (C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
またロブ・レガートは、スコセッシの他、撮影監督のロブ・リチャードソンや編集のセルマ・スクーンメイカーらを納得させるために、エヌヴィザージ社と共に特別なオンセット・プリビズのシステムを作り上げた。これは撮影中のカメラの動きを、ジンバル(雲台)やクレーンなどに取り付けたセンサーからトラッキングできるNcamという装置を用い、エヌヴィザージが制作した簡易CGとセットをリアルタイム合成して、撮影現場で完成画面をイメージ可能にしたものだ。これによりVFXに不慣れなスタッフも、トラブルなくスムーズに仕事ができたそうである。
*4 この周囲で演技する子役たちの安全を守るために、赤外線センサーが取り付けられ、歯車に近付きすぎると緊急ブレーキが掛かる装置も設けられていた。
*5 ピクソモンドは、2001年にフランクフルトに設立されたVFXプロダクションである。全盛期にはシュトゥットガルト、ミュンヘン、ベルリン、ハンブルク、ロンドン、トロント、バーバンク、ロサンゼルス、デトロイト、北京、上海などに支社を構えるまでに急成長し、そのほとんどのスタジオで『ヒューゴ…』を手掛けた。だが2012年以降、ミュンヘン、ベルリン、ハンブルク、ロンドン、デトロイト支社は閉鎖している。
機関車事故のシーン
主人公の少年ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は、悪夢の中で蒸気機関車に轢かれそうになる。この場面は、実際にモンパルナス駅で1895年に起きた事故をかなり忠実に再現したもので、駅舎内を暴走する場面は実物大セットにCGの機関車をピクソモンド社が合成している。
一方、駅舎の壁を突き破って落下する場面は、『インターステラー』(14)の宇宙船モデルも手掛けている米ニュー・ディール・スタジオが、1/4スケールのミニチュアを制作した。この場面の背景は、米マット・ワールド・デジタル社がマットペインティングで処理したが、惜しくもこれが同社最後の仕事になってしまった。