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『ヒューゴの不思議な発明』 実は3Dの超マニアだったマーティン・スコセッシ!

(C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『ヒューゴの不思議な発明』 実は3Dの超マニアだったマーティン・スコセッシ!

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3D効果について



 この映画における3Dは、現在主流の2D/3D変換ではなく、2台のカメラを用いてステレオ撮影を行うネイティブ3D方式だった。撮影機材を提供したのは、『アバター』でも活躍したPACE (現CAMERON | PACE Group)社で、同社のハーフミラー式リグのFusion Camera Systemに、デジタルシネマカメラのArri Alexaを搭載して撮っている。


 スコセッシとロブ・リチャードソンは、駅舎のホームやヒューゴが暮らす時計塔内部など、画面の奥行きを活かした構図を選び、かつ広角レンズ(*6)を選択することで立体感をより強調させた。また時計塔の複雑な鉄骨や、歯車のメカニズムなども立体感に有効だ。これはレイヤーが複雑な割に、個々の対象物に穴が多く空いているため、遠くまで見えることが関係している。そして、これらの中を動き回る移動ショットを多用することで、運動視差効果も生じさせている。



『ヒューゴの不思議な発明』 (C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 


 加えて被写体と背景の間の空間を、常にスモ-クや湯気、雪、浮遊するホコリ(*7)などで埋めている。これは、被写体が厚みのないレイヤーの重なりに感じられる“書割り効果”の発生を防ぐための処置で、2Dだけで見ていると単にホコリっぽいだけなのだが、3Dで鑑賞すると美しいライトビームや、空間の体積表現など劇的な効果が生まれる。これ以降、同様の手法を用いる作品が続出し、今では3D映画の定番テクニックになった。


*6 広角レンズはそれ自体、線遠近法的に奥行き感を強調する効果がある。逆に望遠レンズは画面を前後に圧縮してしまうため、奥行き感が失われると同時に、書割り効果の発生を招きやすい。だが過度に画角を拡げてしまうと、被写体が前後に伸びた不自然な結果にもなってしまう。


*7 この浮遊するホコリは、SFXスーパーバイザーのジョス・ウィリアムズがデパートにあった羽毛枕を買占め、自宅で母親と妹に細かく裁断させたもので、この作業は数か月も続いたそうである。雪は、スノービジネス社という専門業者が担当したフェイクの降雪と、ピクソモンドによるパーティクルが組み合わされている。


ハロルド・ロイドと3Dの関係



 劇中で少女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)は、育ての親であるジョルジュ・メリエス(ベン・キングズレー)に、映画を観ることを厳しく禁じられていた。だがある日、ヒューゴと共に映画館に忍び込んで初めて鑑賞する。


 ここで上映されている作品は、ハロルド・ロイド主演の『ロイドの要心無用』(23)で、この描写はブライアン・セルズニックの原作にもあり、鉄道公安官(サシャ・バロン・コーエン)に追われたヒューゴが、時計台の針にぶら下がる場面の伏線にもなっている。



『ヒューゴの不思議な発明』 (C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 


 ロイドはチャップリンやキートンと並んで「世界の三大喜劇王」と呼ばれ、20年代を中心に活躍したハリウッド・スターだ。実は、このシーンにロイド作品が選ばれたことには、原作者も気付いていない特別な意味が偶然にも隠れていた。


 なぜならロイドは、スコセッシと同じく熱狂的なステレオ写真マニア(*8)だったのだ。そして常にステレオカメラを持ち歩いており、1950年にはハリウッド・ステレオスコピック協会の初代会長に就任した。彼が残した20万枚ものステレオ写真の一部は、写真集「3-D Hollywood」や「Harold Lloyd's Hollywood Nudes in 3-D!」として、現在も出版されている。


 そんな人物であるから、当然3D映画にも強い関心を持っており、『猛進ロイド』(23)の撮影現場を取材したロサンゼルス・タイムズの記者に対して、「僕は、今の映画に欠けているものは立体感だと思う。もし映画の登場人物が、ステレオ写真のように浮き上がって動くのなら、それは究極の映像と言えるだろう。そのような完璧なステレオ映画を作り出した人物こそ、間違いなく映画の誕生以来最大の成功者になるだろうね」と答えている。


 実際にロイドが3D映画に出演することはなかったが、ロイドの予見を称える意味で『ロイドの要心無用』の一部(ヒューゴとイザベルが観ている、ビルの大時計にぶら下がるシーンの4分間)が、レジェンド3D社によってカラーライズと2D/3D変換が行われた(残念ながらこのカラー3D版の映像は、『ヒューゴ…』には使用されていない)。これは、国際3D協会(*9)が主催する3Dクリエイティブ・アーツ・アワードに、2011年から新カテゴリーとして「ハロルド・ロイド賞」(*10)が設けられたことを記念したものである。この賞は、3D映画の発展に多大な貢献をした人物を表彰するもので、その第2回受賞者に『ヒューゴ…』での貢献を称えてスコセッシが選ばれている。


*8 日本では、詩人の萩原朔太郎や映画監督の伊藤大輔もステレオ写真愛好家として有名で、やはりいつもステレオカメラを持ち歩いていた。


*9 国際3D協会は2009年に米国で設立され、2015年から先進映像協会に名称変更された。ちなみに筆者は、ここの日本部会(AIS-J, 旧3DU-J)において、ルミエール・ジャパン・アワードの審査員を2011年から務めており、2018年も11月14日にInter BEE会場(幕張メッセ)で表彰式が行われた。


*10 他のハロルド・ロイド賞の受賞者は、第1回ジェームズ・キャメロン、第3回アン・リー、第4回ジェフリー・カッツェンバーグ(ドリームワークス・アニメーション)、第5回ビクトリア・アロンソ(マーベル・スタジオ)、第6回ジョン・ファヴロー、第7回ダーラ・K・アンダーソン(ピクサー・アニメーション・スタジオ)が選ばれている。



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