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『ヒューゴの不思議な発明』 実は3Dの超マニアだったマーティン・スコセッシ!

『ヒューゴの不思議な発明』 実は3Dの超マニアだったマーティン・スコセッシ!


偶然から生まれたメリエスの3D映画



 メリエスの最盛期を描いた場面では、彼が設立したスター=フィルム社の当時のスタジオ(*11)が忠実に再現されている。これは、シェパートン・スタジオに設けられた実物大オープンセットで、背景はマット・ワールド・デジタル社がマットペインティングで表現した。


 ここで描かれているのは、『妖精たちの王国』(1903)、『地獄のファウスト』(1903)、『千一夜物語』(1905)などの撮影風景だ。いきいきとして監督と主演を兼任するメリエスは、彼を演ずるベン・キングズレーの顔をLola VFX社がデジタル・コスメティクス(CGによるメイク)を施して、20歳ほど若返らせたものだ。


 このシーンに登場するムービーカメラは、実際にメリエスが使っていたもののレプリカである。だが残念なのは、カメラ2台で同時撮影している描写だ。当時メリエスは、自作の海賊版が米国で多数出回っていることに手を焼いていた。驚くことに、海賊版制作を主に仕切っていたのはエジソン(*12)だった。彼は、映画に対する著作権が(1912年まで)なかったことを利用し、海外から買い付けたフィルムの無断コピーで儲け、同時に特許を独占することでライバルの弱体化を狙っていた。



(C) 2011 Paramount Pictures. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved. 


 これに対抗するためにスター=フィルム社は、1902年にニューヨーク支社のアメリカン・スターを作り、自ら配給する体制を整えたが、ヨーロッパ向けとアメリカ向けのネガを作る必要があった。これは「印刷物であれば著作物として権利が保護される」という米国の法律に従い、映画のすべてのフレームをペーパープリントにコピーし、アメリカ議会図書館に登録する必要があったためである。


 この面倒な作業を少しでも効率化させるために、メリエスが1902年に思いついたのが、カメラを2台並べて撮影する方法だった。しかし、彼の持ち味である精密な多重露光を完璧に行うためには、2台がピッタリとシンクロする必要があった。そこでメリエスは、1つのクランクだけで同時に回せるように、頑丈な木製の台に固定した2台のリュミエール社製カメラをシャフトで連結させた。その重量はかなりのもので、カメラの移動は大人4人がかりだったそうである。つまり『ヒューゴ…』で描かれているように、普通の三脚に載せたカメラを2人で別々に回していたのではなかったのである。


 しかも2台のカメラのレンズ間隔は、ちょうど人間の両目の幅ほどだった。つまりメリエスは、自分でも気付くことなく3Dムービーカメラを開発していたのである。この奇跡のような事実は、最近まで誰にも知られていなかった。


 だがミュンヘン映画博物館シュテファン・ドレスラーは、『地獄の鍋』(1903)と『デルフォイのお告げ』(1903)のアメリカ版ペーパープリントを探し出した。そして彼はこれをスキャンし、ヨーロッパ版フィルムと同時にデジタル映写することで完璧な3D映像になることを実証したのである。(*13)


*11 スター=フィルム社が勢いを無くしていくシーンは、ピクソモンド社が徐々に劣化していくスタジオのセットをタイムラプス風に撮影し、さらに伸びるツタ、雑草、落ち葉などCGで加えて表現している。


 また溶かされていくフィルムは、ニュー・ディール・スタジオが手掛けている。画面からは、このフィルムのディテールはほとんど分からないが、彼らはメリエスのDVDからキャプチャーしたフレームを危険性のないアセテートにプリントし、当時風のパーフォレーションをレーザーカッターで切り抜いて制作している。


*12 他にルービン・スタジオ、セリグ・スタジオ、ヴァイタグラフ社などもメリエス作品の海賊版で儲けていた。メリエスは、後にユニバーサル映画を設立するカール・レムリも海賊版を作っていたと述べているが、これは勘違いらしい。


*13 筆者は「第63回 国際フィルム・アーカイブ連盟 東京会議2007」でこの上映を見たが、『地獄の鍋』はヨーロッパ版のみ手彩色(つまりもう片目分のアメリカ版は白黒)だったにも係わらず、何の問題もなく立体視できた。


【参考文献】

マドレーヌ・マルテット・メリエス 著: 「魔術師メリエス‐映画の世紀を開いたわが祖父の生涯」フィルムアート社(1994)

・展覧会カタログ「ジョルジュ・メリエス 夢と魔法の王国」朝日新聞社(1995)

ジョルジュ・サドゥール 著: 「世界映画全史③ 映画の先駆者たち メリエスの時代1897‐1902」国書刊行会(1994)

ロバート・スクラー 著: 「アメリカ映画の文化史‐映画がつくったアメリカ〈上〉」講談社(1995)

「Cinefex No.24 日本版」ボーンデジタル(2012)

ゲイビー・ウッド 著: 「生きている人形」青土社(2003)

トム・スタンデージ 著: 「謎のチェス指し人形『ターク』」エヌティティ出版(2011)

ブライアン・セルズニック 著: 「ユゴーの不思議な発明」アスペクト(2012)

ブライアン・セルズニック 著: 「ヒューゴの不思議な発明 公式ガイドブック」アスペクト(2012)

Blu-ray「月世界旅行&メリエスの素晴らしき映画魔術」紀伊國屋書店(2012)

Blu-ray「ヒューゴの不思議な発明 3Dスーパーセット」パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン(2012)



文:大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHK Eテレ『コングラ CGの教室』(18)の監修。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、日藝映画学科、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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『ヒューゴの不思議な発明』

Blu-ray:2,381円+税/DVD:1,429円+税 発売中

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

※2018年12月の情報です。

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