2人の体に仕掛けられた多数の爆薬
しかし、最も鮮烈なのはラストシーンだろう。どうにか逃げ切れたと思っていた2人めがけて、木陰に待機していた警官たちの銃弾が炸裂する名シーンだ。被弾した球数は計87発。撮影に備えて、ベイティとボニー役のフェイ・ダナウェイは衣装の下にワイヤーで繋がれた爆薬、"スクイブ"を数十個セットしてスタンバイ。ペンのアクションの合図で銃撃が始まると、スクイブが体中で爆発する中、ベイティはゆっくりと地上に崩れ落ち、ダナウェイは車のシートに磔になったまま、被弾の圧力で体をくねくねさせる。体が車からずり落ちないように、彼女の足はギアシフトに固定されていた。俗に言う"死のバレエ"はこうして撮影された。
ここでペンが用いたスローモーションの効果は格別である。スローによって2人が各々別のポーズをとりながら、文字通りダンスを踊っているように見えるのだ。彼がインスパイアされたのは黒澤明の『七人の侍』(54)や『椿三十郎』(62)だったと言われる。
ボニー役を熱望したシャーリー・マクレーン
ベイティは当初、クライド役はルックスが似ているという理由からボブ・ディランに演じてもらうつもりだったが、当然、断られ、自分で演じることにした。この時点で、ボニー役を熱望していたシャーリー・マクレーンの可能性はなくなる。これも、当然だった。姉弟でラブシーンを演じられたら観客にとっては悪夢でしかないからだ。
また、レスリー・キャロンとナタリー・ウッドも候補に挙がった。共にベイティにとっては当時の、そして、かつての恋人である。いかにもプレイボーイらしい人選だ。ウッドはギャングの役なんてできないと一蹴したというが、もし、彼女がベイティのオファーを受けていたらどうなっただろう。女優として第2の黄金期を迎えていたのではないだろうか。