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ロマン・ポランスキーが『ローズマリーの赤ちゃん』に込めた、日常の中に潜む底知れぬ恐怖とは ※注!ネタバレ含みます。
2019.04.11
ポランスキーによる巧みなミスリード
ローズマリーと夫のガイはアパートに入居当初から、隣人の老夫婦、ローマン・カスタベットと妻のミニーの親切すぎる振る舞いに困惑している。ランドリールームで知り合った夫妻の養女、テレサが、突然、投身自殺してしまったのも衝撃だったが、臭い薬草が入ったペンダントをプレゼントして来たり、ローズマリーが妊娠するや否や、妊婦に効くというまずいドリンクを毎日届けに来るのには、ローズマリーもかなり疲弊気味だ。
さらに、老夫婦はローズマリーが信頼していた産科医を強引に旧知の医師に替えてしまう。一番解せないのは、彼らと出会ってからと言うもの、ガイが2人の言いなりなこと。考えてみたら、売れない俳優だったガイがライバルの失明によってチャンスを掴んだのも、2人と出会って間もない頃の出来事だった。
『ローズマリーの赤ちゃん』Copyright (C) 1968 Paramount Pictures Corporation and William Castle Enterprises, Inc. All Rights ReservedTM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
膨らんでいく疑惑が確信に変わる瞬間が訪れる。ローズマリーの知人、ハッチが命と引き換えにローズマリーに託したのは、この世に存在する魔族の家系図であった。
ポランスキーはワンシーン1カット、多くても2カット方式を徹底して貫きながら、あくまでもローズマリーの目線で、何気ない日常が闇に取り込まれていくプロセスを、こけおどし的演出を一切排して描き切っている。そこが凄い。傍迷惑な隣人の存在や、日々見聞きしている悲劇的事件の偶然性、そして誰しもつい抱いてしまう疑惑や空想を、他者からもたらされた情報によって具現化していく様子が、とても人ごととは思えなくなるのだ。ちょっと怖い"日常あるある"である。