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『シンドラーのリスト』“スピルバーグ映画”を越境する「音」への取り組み

『シンドラーのリスト』“スピルバーグ映画”を越境する「音」への取り組み


自らが育てたデジタル音響システムの採用



 いっぽう効果音は、ルガーP08やVz24など生を断絶させるような銃の発砲音に加え、拡声器による親衛隊の怒声など、どれもが不快感を増大させる響きで、観客を聴覚から震え上がらせていく。個人体験で恐縮だが、筆者はこの映画を公開初日に京都・京極東宝で鑑賞した際、効果音演出に恐怖心を煽られたことをノートに記している。いわく「K98Kライフルの弾道が耳横をかすめ、一瞬、隣の客が撃たれた錯覚に陥った」と——。

 

 『シンドラーのリスト』を語るうえで積極的に言及されていないが、こうしたアプローチの一助となったのが、映画における音響技術の発達だ。本作には当時最新式のデジタル音響システム「dts(デジタル・シアター・システムズ)」が採用され、サウンド面での補強が図られている。


 上映プリントに記録されたタイムコードを音声データの入ったCDに同期させ、高品質なマルチチャンネルサウンドを提供するdts。映画の規格がフィルムからDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)へと変わった現在、仕組み自体は過去のものとなったが、そのデジタルプロセスは映画音響の流れに革命を及ぼしている。


 スピルバーグはこの方式を開発した「DTS Inc.」に先行投資しており、その第1作目として恐竜パニック映画『ジュラシック・パーク』(93)にdtsを採用。全米876館の劇場に再生用システムを装備させ、同方式の上映基盤を整えたのである。そして、この一連の流れは『シンドラーのリスト』の布石として機能していったのだ。


 なにより『ジュラシック・パーク』と並行して製作された本作は、ジャンルは違えど先のような音響設計面で兄弟のごときDNAを有している。題材が題材だけに、作品分析にあたってストーリーやテーマ、思想に論証を求めがちになるが、何よりもそこには高度な技術が判断材料として横たわっていることを『シンドラーのリスト』は実感させてくれる。



(C)1993 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. AND AMBLIN ENTERTAINMENT, INC. ALL RIGHTS RESERVED.


 しかし一事をもって万端を知る、とはならず。物語後半、アウシュヴィッツ強制収容所に誤送されたシンドラーの労働者たちがシャワー室へと運ばれ、配管から流れてくるのが「毒ガス」か「温水」かの恐怖に震えるところ、バイオリンの音色がスリラー描写を倍加させていく。そんな従来どおりの、ウィリアムズとスピルバーグの息の合ったアンダースコア演出も本作では確認できる。もっとも、そんなスピルバーグが持つ卓越した構成力と、優れた演出力。これらベーシックな作家的資質がアンダースコアの調べを借りずとも、観客の意識を感動へと向かわせる……というのは既知に類する指摘だろう。


 こうした『シンドラーのリスト』で実践された「音」への取り組みは、後の第二次大戦映画『プライベート・ライアン』(98)へと受け継がれていく。そして同作の、冒頭25分間に及ぶオマハビーチ上陸作戦、ならびにクライマックス30分を構成するミラー分隊とナチス戦車隊との戦いにアンダースコアはいっさい用いられず、スピルバーグとジョン・ウィリアムズの音楽的アプローチはより精度を高め、ミニマルを極めていくのである。



参考文献:

“25th Anniversary Edition Soundtrack Schindler's List” La-La Land Records

Franciszek Palowski“The Making of Schindler's List:Behind the Scenes of an Epic Film”Birch Lane Pr




文: 尾崎一男(おざき・かずお)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter: @dolly_ozaki



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(C)1993 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. AND AMBLIN ENTERTAINMENT, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

※2019年7月の情報です。

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