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『タイタニック』ジェームズ・キャメロンが“世界の王”になった必然と奇跡

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『タイタニック』ジェームズ・キャメロンが“世界の王”になった必然と奇跡

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キャメロンの計画になかった主題歌



 エンドロールで流れるセリーヌ・ディオンの『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』は、『タイタニック』を観た人ならまず間違いなくこの映画に不可欠な要素だと思うだろう。だがキャメロンは当初、それまでの監督作と同様、『タイタニック』にも歌入りの曲を使うつもりはなかった。自分の映画に、主題歌は似合わないし必要ないと思っていたのだ。


Céline Dion - My Heart Will Go On (Love Theme from 'Titanic') 


 本作のオリジナルスコアを担当することになったのは、『 エイリアン2』(86)でキャメロンと組んだジェームズ・ホーナー。彼はキャメロンの要求に応えながら、テーマの旋律をはじめ主要な場面での美しいメロディーを次々に作っていった。


 エンドロールに流す音楽をどうするか、ホーナーは悩んだ。キャメロンがテーマソングを毛嫌いしているのは承知していた。だが、すでに自分で最高と思えるメロディーを劇中用に作曲しており、それ以上のものなど書けそうにない。そこで考えたのは、劇中で使う旋律を発展させて歌にすること。ただし、先にキャメロンに提案しても却下されるのは目に見えているので、承諾を得ないまま秘密裏に進めることにした。


 歌用に作曲したホーナーは、曲に合わせた歌詞を作詞家のウィル・ジェニングスに書いてもらい、次に個人的に知り合いだったセリーヌ・ディオンに連絡をとった。すでに『 美女と野獣』(91)の主題歌などのヒットで大物歌手になっていたディオンに、採用される保証のないデモの録音を頼んだのだ。それでも、ホーナーが歌って聴かせた曲を気に入ったディオンは快諾し、1週間後後にデモテープを録音する。


 ホーナーはできあがったデモテープを持ち歩いたまま、キャメロンと仕事をしながら3~4週間チャンスをうかがった。監督の機嫌が良さそうに見えたある日、ついに決意を固めて「聴かせたい曲がある」と切り出し、テープをかける。ホーナーの記憶によれば、キャメロンはまず「これはセリーヌだね?」と確かめ、さらに「これは歌だよね?」と言ったという。最後まで聴いて、キャメロンは「最高だ」と認めた。



『タイタニック』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 


 そうしてディオンが歌う主題歌の採用がようやく正式決定し、レコーディングを経て、『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』は映画の公開より10日ほど早い1997年12月8日にリリースされた。「近く 遠く どこにあなたがいても その心が生き続けることを信じる/あなたがいる私の心は これからもずっと生き続ける」と歌うディオンの声は、エンドロールまで観客の感動を維持し、『タイタニック』と深く結びついた。この主題歌はディオンにとって最大のヒット曲となり、テレビやラジオ、街中で流れる歌を聴いて映画の感動を思い出し、劇場にまた足を運ぶ人が世界中で続出した。映画と主題歌の両方の特大ヒットが相乗効果を生んだのだ。


 キャメロンは自分が理想とする映画を作ることに強くこだわるが、他人の意見やアイデアでも良いものは受け入れる柔軟さも持ち合わせている。『タイタニック』の企画から製作まで多くの幸運にも恵まれたが、無数の困難を乗り越えるタフさと、良いものをどんどん採用してベストを尽くす柔軟さを備えたキャメロンは、しかるべくしてこの巨大な成功を手にしたと言えるだろう。


【参考】

1.『 タイタニック ジェームズ・キャメロンの世界』ポーラ・パリージ著 鈴木玲子・訳 ソニー・マガジンズ

2.『 ジェームズ・キャメロン 世界の終わりから未来を見つめる男』レベッカ・キーガン著 吉田俊太郎・訳 フィルムアート社

3. DVD『 タイタニック アルティメット・エディション』 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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