2019.05.06
シリーズ史上最高にドラマティックな作風に
強敵サノスがインフィニティ・ストーンをすべて手中に収めた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、絶望的な状況の内に幕を閉じた。ソーに致命傷を負わされるものの、最後にはサノスのスナップ(日本では指パッチンなどと名称されるが、正式名はザ・デシメーションというようだ)によって全宇宙の生命体の半分が消滅。アベンジャーズのメンバーでさえこの悲劇には抗えなかった。「インフィニティ・ウォー」はいうなれば、これまで幾度となく世界を救ったアベンジャーズが、大敗を喫するだけの映画である。
増えすぎた人口の半分を消し去ることによって、この銀河全体の需要と供給を正常化し、崩れたバランスを再構築する――。一見、理にかなっているように思えて非常にエゴイスティックなサノスのこの野望は、徹頭徹尾に果たされてしまった。本作『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、前作で敗れたアベンジャーたちの言葉にできない厭世感と、挫折に打ちひしがれる描写にかなりの尺を割いているのだ。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)Marvel Studios 2019
作中前半では、独善者サノスによって消し去られた仲間たちは、もう戻らないだろうと悟るアベンジャーズの面々を見せ、前作ラストの敗北感を冒頭で再び味あわせてくる。「頭を狙うべきだったな」とは、前作でサノスが放った言葉だが、ソーはこの言葉をずっと後悔として引きずっている。サノスに敗れたこの未来を一向に受け入れられずにいるソーは、アベンジャーズの中で最も心に傷を負ったキャラクターとして、これまで以上に繊細に描かれている。もしもあの時、頭を狙っていれば……と、この悔恨の情を拭い去ることができずにいるのだ。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(c)Marvel Studios 2019
もちろん、迫力のバトル・シーケンスも見どころではあるが、それ以上にキャラクターの内面を丁寧に、そしてドラマティックに描写している本作は、感動必至のフィナーレを迎える。サノスが実質的な主人公だった「インフィニティ・ウォー」を経て、アベンジャーズが主役に復帰する「エンドゲーム」は、まさに映画を超越したひとつの“伝説”として長く語り継がれることだろう。
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』
(c)Marvel Studios 2019
※2019年5月記事掲載時の情報です。