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『パターソン』は、フォントファンのためのフォント萌えをするフォント映画。

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『パターソン』は、フォントファンのためのフォント萌えをするフォント映画。

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ジャームッシュ映画は、フォントファンのためのフォント萌えをするフォント映画



 さて、本作の詩情が素敵なのは、その詩の見せ方にセンスが溢れているからである。


 ひとつめの要因は、パターソンが綴る詩を、ジャームッシュが以前から愛読してきたロン・バジェットが担当していること。そして最大の要因は、パターソン(ロン)による素敵な詩がパターソンの風景に合わせて、スクリーンの下から上へとスクロールしながら手書きの文字で記されていくのだが、この字がとてもシャープで繊細で、もだえるほど素敵だからである。ちなみにこの字は、パターソン役のアダム・ドライバーの手書き文字をフォント化したものだ。


 そう、ジム・ジャームッシュを愛するファンなら激しく同意してくれるだろうが、彼はフォント好きにはたまらないフォント萌え作家なのである。ちなみにフォントとは1つの書体の文字サイズごとに作られた大文字・小文字・数字・記号類のセットのこと。ジャームッシュの映画ではフォントへのこだわりが半端ではない。


 例えば1999年の『ゴースト・ドッグ』では原題のタイトルロゴを始め、クレジット・タイトルの文字はジャームッシュ本人の手書き文字をベースにしたフォントを用いている。こちらの字は基本的には丸さが特徴的ながら、踊るような自己主張した勢いのある書体となっている。以前、ジャームッシュの字について、文筆家片岡義男は、自分のサイトで「モールスキンの手帳」というタイトルの素敵な文章を発表している。


 2003年の『コーヒー&シガレッツ』では、オランダの著名なフォントデザイナー「Fabian De Lange」によるものを起用し、60年代のニューヨークの広告にあったような、敢えてアグリーな部分を強調した書体を選んだという。もちろんこちらも手書き文字で、嬉しいことに誰でも使えるフリーフォント「Cigarettes and Coffee free font」として公開されている。「Fabian De Lange」はディズニーの実写版『美女と野獣』のポスタータイトルのフォントを担当したことでも有名だが、こちらはロイヤル感が溢れる書体となっていて、その違いも見比べると面白い。


 ちなみに日本でタイトルの書体にこだわったのが市川崑監督。タイトルのヴィジュアルは「作品の内容を端的に表す重要なファクター」と太明朝にこだわったのは有名で、「市川崑のタイポグラフィ「犬神家の一族」の明朝体研究」(小谷充/水曜社)という研究本まで発売されている!一口に明朝体と言っても、その中にもいろいろ差異があり、市川崑の影響を受けた庵野秀明は、「新エヴァンゲリオン」の明朝体を、石井特太明朝を愛した市川崑と差別化するため、さらに太いフォントワークス製の「マティスEB」という明朝体を選んだという。もはやマニアックすぎて、くらくらするほどのこだわりだが、やはりそこまでのこだわりがあるからこそ、彼らの作る映像は他の人との差別化がくっきりとするのではないだろうか。



文: 金原由佳(きんばら・ゆか)

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。ロングインタビュー・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』、『アクターズ・ファイル永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワネットワーク)などがある。



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公式HP: http://paterson-movie.com/

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Photo by MARY CYBULSKI (c)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved. 


※2017年9月記事掲載時の情報です。

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