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『町田くんの世界』安藤ゆき×石井裕也。異才の掛け合わせで飛躍した映画

『町田くんの世界』安藤ゆき×石井裕也。異才の掛け合わせで飛躍した映画


法則も予測も飛び越える大展開(※注!ネタバレを含みます。)



 ここから先は、やはり映画オリジナルである終盤の展開に触れている。鑑賞前の方には、ぜひ劇場でサプライズを体験してから、このテキストを読み進んでいただけたらと願う。


 石井監督は、「(今の時代は)起こるはずのないことが起こる、という感覚」を持っていて、「東日本大震災以降は特にそう」だと語っている。そして「何が起こってもおかしくないというのであれば、反対にものすごく素敵なことが起こり得るんじゃないか」とも考えたという。


 終盤に起こる素敵なこと。それは、「町田くんが空を飛ぶ」という奇跡だ。町田くんが風船をつかんで空中に浮かぶイメージは、序盤に猪原さんの夢で一度描かれていた。しかし終盤では、リアルな出来事として風船を持った町田くんが空を飛ぶ。遠く離れてしまう猪原さんに自分の気持ちを伝えたいという、懸命な思いがミラクルを生む。


 夢の場面を除けば、映画はリアリズムのスタンスを中盤まで保っており、ファンタジーやSFの要素は一切ない。だからこそ意外性満点なのだが、この“飛躍”はある意味普遍的で、日本人にはよりなじみ深いものかもしれない。というのも、宮崎駿監督のアニメ作品に代表されるように、空を飛ぶシーンは「自由」の象徴として描かれることが多い。重力という物理法則からの解放であり、ルールに縛られた現実世界からの解放だ。また、スピッツはヒット曲「空も飛べるはず」で、「君と出会った奇跡がこの胸にあふれてる きっと今は自由に空も飛べるはず」と歌った。恋の高揚感もまた、空を飛ぶイメージと親和性が高いのだ。




 聖人のようだった町田くんが奇跡を起こして空を飛ぶが、“神の手”がはたらいて降下し、プールに落ちる。聖性を失った町田くんが水に落ちていったん「死に」、普通の人として「再生する」ことは必然のプロセスだ。そこで交わされる、町田くんと猪原さんの本音の言葉。そして町田くんが猪原さんに向かって泳ぎだすところで、神の視線を思わせる俯瞰ショットに切り替わる。生まれ変わった「新しい町田」は、しかし、運動オンチのままだ。観客は泣き笑いしながら、心の中でこう突っ込むだろう。「町田くん、遅すぎ!」


 『町田くんの世界』が映画になって本当によかった。こうして出会うことができたから。僕も町田くんが大好きだ。


【参考】

・コミック「 町田くんの世界」(全7巻)安藤ゆき 集英社

・DVD『 反逆次郎の恋』 アップリンク



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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作品情報を見る



『町田くんの世界』

配給:6月7日(金) 公開

ワーナー・ブラザース映画

公式サイト: http://wwws.warnerbros.co.jp/machidakun-movie

(c)安藤ゆき/集英社 (c)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

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