ナチス宣伝相ゲッベルスのお気に入り映画だった?
かくも数々の伝説的シーンを映画史に刻んだ『海外特派員』だが、その面白さは思いのほか敵国にも知れ渡っており、本作はナチス・ドイツの宣伝大臣ゲッベルスの大のお気に入りでもあったとか。
劇中、「ドイツ」や「ナチス」というワードを用いることがなく、さらには敵国としての侮蔑や、揶揄する描写がないところもお気に入りの理由だろうか。
いや、ヒッチコック本人の読みはちょっと違うようだ。彼は前述した「リアルすぎない」という特徴を真っ先に挙げ、「<らしさ>に縛られていない、純粋なるお遊びの内容だったからこそ、ゲッベルスもナチであることを忘れて楽しめたのではないか」(「映画術」p.125)と述べている。
リアルタイムではあるけれど、決してリアル過ぎない。政治や主義主張に偏らず、あくまで単純明快な娯楽であることを忘れない。しかし、政治に偏っていないと言いつつも、クライマックスの世界へ向けたメッセージは激しく胸を打つ。そんな絶妙な匙加減と映画作りのこだわりこそが、本作を伝説的な映画へと至らしめたのではないだろうか。未見の方は是非一度、ご覧いただきたい一作である。
引用・参考文献
「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」フランソワ・トリュフォー/山田宏一・蓮實重彦訳/1990/晶文社
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『海外特派員』
ブルーレイ:¥4,700+税
販売元:ポニーキャニオン
(c)1940 STUDIOCANAL