2017.09.14
ファティ・アキン監督の新しい取り組みとは?
トウモロコシ畑の間の道をブルーのおんぼろSUV車で疾走する少年たち。前にしか進まないと決めた二人はそこが牧場だろうと、森だろうと、細い木橋だろうと突き進む。トウモロコシを車でなぎ倒しながら“Tschick(チック)”の名を綴る二人のはしゃぎっぷりには高揚させられ、貯水池で洗った身体を桟橋に寝転んで乾かすイザと少年たちには青春の甘酸っぱさを思い出させられる。スカッと爽やかな青春映画なのだが、これまで多くの問題作を送り出してきたファティ・アキン監督のこと。この笑えて、痛快で、甘酸っぱい物語の中に様々な社会問題を散りばめる。
トルコ移民の子としてドイツに生まれたアキン監督は、これまで移民・難民問題を描いた『愛より強く』(2004)、『そして、私たちは愛に帰る』(2007)、この問題を生み出した元凶だと指摘するアルメニア人虐殺を描く『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014)の“愛、死、悪に関する三部作”と、初のコメディ『ソウル・キッチン』(2009)で、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの3大映画祭を制してきた。しかし、一方でこれらの傑作、特に「三部作」を“古めかしい作り”と評する声もあった。
『50年後のボクたちは』もベースには移民・難民問題がある。いまなお続くヴォルガ・ドイツ人の問題、そして移民や難民の受け入れ政策が生んだ貧富、宗教、教育など負の部分。だがアキン監督はそういった歴史や大人の事情による問題を、今回は前面に出さず、14歳の子どもたちの日常の中に埋め込んだ。映画への新しい取り組み方を探していたアキン監督に、原作となったこの児童小説はジャストフィットした。「あの小説は僕を救ってくれた」とさえいっている。