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『デス・プルーフ in グラインドハウス』デカいアメ車と女性とスタントマンへの、最高のタランティーノ式オマージュ

『デス・プルーフ in グラインドハウス』デカいアメ車と女性とスタントマンへの、最高のタランティーノ式オマージュ

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超アツい!スタントマンへの愛情



 また本作において、タランティーノが1970年代のカーアクション映画と同等、あるいはそれ以上のオマージュを捧げているのが、スタントマンという裏方の仕事人に対してだ。そもそも主人公が大物スタントマンを名乗る変態殺人鬼。まあ設定としては微妙な方向にひねっているのだが(笑)、内実のリスペクトはストレートで超アツい愛情にあふれている。


 まずその主人公、スタントマン・マイク役のカート・ラッセルのスタントマンを務めているのが、バディ・ジョー・フッカー。1942年生まれのベテランで、タランティーノは「映画史上で最高のスタントマン」だと呼ぶ。担当した作品をIMDbで調べると、バート・レイノルズ主演の痛快カーアクション映画『白熱』(1973年/監督:ジョセフ・サージェント)など200以上のタイトルが出てくるのだから圧巻! 


 バート・レイノルズと言えば、彼がハリウッドの有名スタントマンを演じ、アクション映画の舞台裏を描いた『グレート・スタントマン』(1978年/監督:ハル・ニーダム)にもフッカーはノンクレジットで出演していた。この影のヒーローにタランティーノは最大限の敬意を払っており、例えばDVDのプレミアム・エディションの特典メイキング映像ではフッカーを大フィーチャーしている。


 優秀で勇敢なスタントマンなくして、本物の車を本物の人間が運転しているカーアクション映画の面白さはありえない。この命がけの貢献度を世に知らしめることが『デス・プルーフ in グラインドハウス』の裏テーマであり、その象徴が、ゾーイ・ベルの女優としての起用だ。映画の後半、猛スピードで爆走しているダッジ・チャレンジャーのボンネットの上に乗っている彼女。演じるのはニュージーランドからやってきたスタントウーマンのゾーイ、つまり本人(とニアリーイコール)の役である。




 ゾーイ・ベルは1978年生まれ。母国ニュージーランドで女性スタントとしてのキャリアを始め、やがて渡米。そこでタランティーノ監督の『キル・ビル』(03)のオーディションに合格し、ユマ・サーマンのスタントに抜擢される。そのへんの経緯はドキュメンタリー映画『Double Dare(ダブル・デア)』(04)で紹介されているのだが、タランティーノは『キル・ビル』の現場でのゾーイの仕事に感激し、『デス・プルーフ in グラインドハウス』では彼女自身の顔を出す役――主演女優のひとりにキャスティングしたのだ。

 

 もちろんゾーイはどんな危険なスタントも自前でこなす。そんなゾーイの姿を目にした大先輩のバディ・ジョー・フッカーは、彼女を「女性版スティーヴ・マックィーンだ」と呼ぶ。


 DVD特典のメイキング・ドキュメンタリー『ゾーイ・ベル as スタント・ヒロイン』での、ゾーイの以下のコメントは感動的だ。


「スタントは影の存在だし、脚光を浴びなくてもかまわない。私は映画スターになりたいわけじゃないもの。でもイラつくのは、すごいスタントをやった時、一番かっこよく見える角度が私の顔が映ってしまったせいで使えない時ね。そんなことで最高のショットを無駄にしてしまうのよ。


 今回の『デス・プルーフ in グラインドハウス』でも、ある時にふとスタントシーンを映像で確認して、自分の顔が映ってるのを見た時“しまった”と思ったの。でも今回は別に私の顔が映ってもオーケーだった(笑)。最高の気分だったわ!」


 映画の真のスターは表舞台の俳優だけじゃない。一見過激な要素に満ちあふれたタランティーノの作品の中には、映画を裏で支える職人たちへの深い理解と配慮、優しさが詰まっているのだ。まさに本物の映画愛だと思う。


 

文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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(c)Photofest / Getty Images

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