“核の時代”における“真の敵”とは
本作は、ロシアで起きた極右派の叛乱を伝えるアメリカのTV放送から始まる。叛乱を指揮するラドチェンコとクーデター軍は核兵器基地を占拠、アメリカ政府と軍は、この一触即発の危機に、一気に緊急態勢をとる。そして原潜アラバマを出港させ事態にあたらせる。
アラバマの艦長・ラムジー大佐は、分かりやすい叩き上げの軍人で、非常に保守的な思想を持ち、軍事に対してはタカ派な姿勢をとる。彼のトレードマークは赤いキャップだ。じつはトニー・スコット監督自身も、ボロボロに使い古したキャップをいつもかぶっており、周囲に対して単純明快で頑固なタイプの人物を演じていたところがある。これはドナルド・トランプの選挙時にかぶっていたキャップと重なる部分がある。
また副長を務めるのは、デンゼル・ワシントンが演じる本作の主人公、ハンター少佐である。彼はハーバード卒のエリートで、軍事外交については穏健派だ。ラムジーとハンターは、やがてアラバマに届いた核兵器発射に関する“不完全な”指令をめぐり、核ミサイルをロシアに向け発射するかどうかで厳しく対立することとなる。
『クリムゾン・タイド』(c)Photofest / Getty Images
ハンター少佐が、軍人なのにもかかわらず、核兵器発射に極度に慎重になるのは意味がある。彼は冷戦から後、核の時代に突入した世界の緊張する軍事状況において、一方の軍が核兵器を使用した場合、連鎖的な報復が起こることが予測できている。ハンターは、「核世界の真の敵は戦争そのもの」と語る。そう、一度発射したら最後、結局は互いの国が壊滅的な被害を受け、おびただしい数の死者を出すことになるという悪夢的な事態を回避できないのだ。
ロシア側の原潜の攻撃を受け、アラバマは基地との通信機能を失い、外部と完全に遮断された状態になってしまう。緊急事態下での核兵器使用が認められているため、ミサイル発射は原潜内で決定されるという異常事態に陥る。