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『クリムゾン・タイド』原子力潜水艦内部が体現するアメリカの縮図とは

(c)Photofest / Getty Images

『クリムゾン・タイド』原子力潜水艦内部が体現するアメリカの縮図とは

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アメリカの縮図となる原子力潜水艦内部



 それでも、艦長と副長の意見が分かれている場合、双方の同意がない状態では発射はできない。だが、ラムジーは艦内でクーデターを起こして主導権を握ろうとし、ハンターもまた彼を支持する部下とともに発射阻止のために行動することになる。海での軍人のクーデター合戦は、皮肉にもソ連の映画『 戦艦ポチョムキン』(25)を想起させられる。


 面白いのは、完全に隔離され、大権を手にしている原潜の中では、国防という意味において、あたかもそこは、共和党と民主党、保守とリベラルが対立する合衆国そのものになってしまっているという構図だ。そして乗組員たちが攻撃を実行しようとする艦長を支持するか、静観をうったえる副長を支持するかという選択を余儀なくされるという状況は、アメリカ大統領選と近いことをやっているといえよう。そう、本作は原潜の中でのクーデターを描きながら、アメリカ合衆国の中の政治的なせめぎ合いを表現しているのだ。そしてそこでは、人種差別や女性への偏見など、実際の社会の背景をも描写される。


 大統領選は、国民の投票が州によって分けられ、州ごとの結果を総計して結果を出すことになっている。つまりアラバマの乗組員は、一人ひとりが“州”なのである。州ごとに、もともと保守的な地盤、リベラルな地盤というものが存在し、だいたい結果は予測できる。問題は、「スイング・ステート」と呼ばれる、浮動票の多い地盤である。このような州は結果が読めないため、勝敗の鍵を握る重要な存在となる。



『クリムゾン・タイド』(c)Photofest / Getty Images


 そんな存在を体現しているのが、ヴィゴ・モーテンセンが演じているウェップス大尉である。兵器を管理している彼は、艦長と副長の板挟みに悩み、どちらを選ぶか苦悩することになる。


 大統領選などにおいて、共和党のイメージカラーは赤、民主党のイメージカラーは青となっている。本作では、赤、青、緑の色のライトが効果的に使われ、それぞれの俳優の顔に当てられているが、ウェップスには、赤と青の照明が半々に顔に当てられる象徴的なカットがある。ここではロシア表現主義を思わせる絵づくりとなっていて興味深い。


 核兵器が実際に使用されるような未来に突入するのか、それとも地獄を回避するのか。それは他人ごとではなく、国民主権の社会においては、一人ひとりの票が決めることになるのだ。そのために、われわれはそこをしっかりと見定めなければならない。本作が描くのは、そのような政治的方向性が未来を決定するという、シンプルなシミュレーションでもあるのだ。



文: 小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter: @kmovie


(c)Photofest / Getty Images


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